研究課題/領域番号 |
15K04733
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
奥田 修一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00142175)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コヒーレント遷移放射 / 電子ライナック / THz光源 / 半サイクル光 / 吸収分光 / 非線形作用 / 水 / 生理活性 |
研究実績の概要 |
加速電子バンチからのコヒーレント放射は、THz域の光成分を持っており、他にない強力な単極電場を持つピコ秒パルス光(半サイクル光)の生成が可能である。このTHz光量子ビームの作用で、新たな研究領域を開拓するために研究を行った。京大原子炉実験所45 MeV Lバンド電子ライナックにおいて、申請者らが独自に世界に先駆けて開発したコヒーレント遷移放射光源と吸収分光計測系で吸収分光実験を行っている。本研究では、前年度に引き続きこの光源を利用した。アルミニウム箔からの後方への遷移放射を加速器室外に導き、集束して試料に照射した。光検出器には、液体ヘリウム冷却シリコンボロメータを用いた。加速器条件を変えて光源の特性を詳細に調べるとともに、コヒーレント遷移放射から半サイクル光の生成条件を求める実験を行った。また試料への作用時間を変えて非線形の現象を探索するために、光パルスの幅を変化させて実験を行った。Lバンドライナックでは、幅約10 ピコ秒のミクロパルスの光が770 ピコ秒の間隔でパルス列を形成し、このパルス列によるマクロパルスの幅を、数ナノ秒から4 マイクロ秒まで変化させた。このように光照射条件として、強度、パルス幅、パルス形状、パルス繰り返しを変化させて、Martin-Puplett型干渉計で、THz領域(ミリ波、サブミリ波領域)における透過光のスペクトルを測定した。これらの実験で、ほぼ最適な照射条件が得られた。水および生理食塩水を対象に光の吸収を調べ、新たな物性の探索に向けての実験を行った結果、両者における吸収挙動の差や非線形現象の可能性が明らかになった。さらに、生物試料への光照射の実験を開始した。この結果から照射条件の高度化が必要であることが明らかになり、その準備を行った。これらの研究成果を、報文および国内の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画はおおむね変更なく、ほぼ予定通りに実験を行った。水および生理食塩水の光吸収特性について、非線形現象の可能性などの重要な知見が得られた。ここで、コヒーレント遷移放射の特性を調べて最適化し、半サイクル光の生成条件を求める研究は、前年度から継続して行い、光照射条件として、強度、パルス幅、パルス形状、パルス繰り返しを変化させて、おおむね最適な条件が得られた。生物試料の照射実験系の高度化の必要が明らかになった。また研究の成果の発表は十分に行えなかったが、今後これらの結果をまとめて、国際会議や論文での発表を行う。このように一部に研究の遅れはあるが、おおむね良好な進捗状況が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的の一つは、反応プロセスや生体の基本媒質である水について、新たな物性を探索することである。本研究で可能性が明らかになった光強度に対する非線形吸収効果についてより詳細に実験を行い、水の新しい物性を明らかにする。生体内の水を模擬した生理食塩水について、水に対する結果との違いに関して、新たに得られた知見を基に解析し、食塩水における光吸収挙動を明らかにする。もう一つの目的は、強力なコヒーレント放射の生物への生理活性の探索である。生物試料は、標準的な菌および微生物(大腸菌、酵母、ユーグレナ藻)に細胞を加える。生物試料を無水石英板にはさんだ水中に浮遊させて光照射を行う。水はサブミリ、ミリ波の強い吸収体であり、試料の全厚さを0.5 mm以下として、試料に照射される光強度の減衰を抑える。大腸菌や酵母では、照射後に培地での培養における増殖率の変化を調べ、定量化して結果を評価する。単細胞真核藻類のユーグレナ藻では、光照射中の挙動を実体顕微鏡で直接観察して影響を調べる。予備実験で必要性が明らかになった生物試料に対する実験系の高度化を行う。主として試料の保持法と光学系配置を変更する。これまでの予備的な実験では光照射の影響は観測されていないが、今後さらに光学系や半サイクル光の条件を変えて詳細に実験を継続する。生体における新しい現象と生理活性を探索し、放射線とは異なる量子ビームの応用分野を開拓する。この成果は、開発が進められているエネルギー回収型電子ライナックにおいて計画されている、平均出力が高いコヒーレントTHz放射の光源利用に新たな道を拓くことが期待される。得られた成果を発表し、この分野における国内外の研究の進展に貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究において、おおむね計画通り研究を実施した。このうち、生物試料に対する光照射および照射中の観察実験で、光照射条件の最適化をめざして検討を行った結果、照射実験系の高度化が必要になった。また成果発表については、次年度を中心に行うこととした。このため、照射実験系の高度化に要する予算および国際会議等における成果発表に係る予算は、次年度に使用する必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生物試料に対する光照射および照射中の観察実験に関する実験系の高度化に関して、光学系の設置に必要な光学部品及び機械部品関連の予算を、主に次年度の前半を中心として使用する計画である。また成果発表は年度にわたって行う。
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