研究課題/領域番号 |
15K04734
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
飯島 北斗 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 助教 (90361534)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | アルカリ-アンチモン / 光陰極 / 機能性材料 / 高耐久化 |
研究実績の概要 |
負電子親和力(Negative Electron Affinity; NEA)表面のヒ化ガリウム(GaAs)は、高量子効率な光陰極として開発が進められてきた。NEA表面は極めて清浄なGaAs表面にセシウム(Cs)と酸素(O)を蒸着することで形成するが、この表面は非常に弱く、残留ガスの吸着やイオンバックボンバードメントにより著しく量子効率が劣化する。本研究ではアルカリ-アンチモン化合物薄膜を用いて、こうしたフォトカソードの高耐久化を目指す。 本年度は主に分光測定装置の構築を行った。また、p-GaAs基板にセシウム-アンチモン(Cs-Sb)薄膜を成膜し量子効率や寿命の測定を行い、成膜したものの組成を昇温脱離法(TPD)による分析を行った。 昨年度まで行っていたK-Cs-Sb薄膜と同じ方法でGaAs基板上に成膜したCs-Sb薄膜の量子効率は、波長406nmの光に対して5%程度であった。この試料に対して光電流を測定しつつTPDによる分析を行うと、約600度までの昇温加熱に対してCs脱離の複数のピークが再現良く観測された。このことは基板上のCs-Sbの状態が、一般に言われるDO3結晶構造であるCs3Sbだけではなく、複数存在することを示唆する。 こうしたCs-Sb薄膜の波長に対する量子効率のスペクトルはこれまでに報告されたものとほぼ同じであったが、光電子放出と昇温脱離の同時測定から、光電子放出に寄与していると思われるCsは表面に極めて弱く結合していることが分かった。このためCs-Sb薄膜の量子効率劣化は、NEA-GaAsとは異なり残留ガス吸着よりもCsの熱脱離による寄与が大きいことを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高量子効率、長寿命という観点からは、昨年度まで行っていたK-Cs-Sb薄膜でも実現していた。しかし成膜の安定性があまり良くなく、解析のためのTPD曲線も複雑なものが観測され、薄膜の状態または表面の状態と量子効率、寿命の関係性が明確ではなかった。これは主に2種類のアルカリ金属(K, Cs)を使っているためであると考えた。 そこで本年度は、よりシンプルな系にするためKを使わずCsのみを用いた薄膜の分析に注力した。実際、Cs-SbのTPD曲線におけるCs、Sbの脱離ピークは明確で再現性も良い。この結果から光電子放出に最も寄与しているCsは表面に極めて弱く結合していることが分かった。また、量子効率劣化は、NEA-GaAsとは異なり、残留ガス吸着よりも弱く結合しているCsの熱脱離による効果が大きいことが確認できた。この弱い結合は、Cs-Sbの成膜方法を考慮してCs-Cs結合可能性が高い。 これまで、半導体光陰極の高性能化は成膜における経験則に基づくものが多かったが、今回陰極を構成するCs-Sbの状態との相関がある程度見えてきており、研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究で、アルカリ-アンチモン薄膜の量子効率および寿命を決定している主な要因は表面に弱く結合しているCsによるものであることが分かった。しかし一方で、より強固な結合をもったCs-Sb化合物も基板上に存在していることも、TPD曲線より確認している。例えばこれは、一般にいわれるCs3Sb結晶の可能性もある。 今後は、まず、TPD曲線に見られる各Cs、Sb脱離のピークとCs、Sbおよび基板のGaAsの状態(主に結合状態の違いと考えている)を明確にする。また弱い結合をもつCsと強固なCs-Sb化合物の生成比が何によって決まるかを測定し、より強固な機能性保護膜を実現していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった光学部品の一部に対し、仕様を満たした製品がなかなか見つからず、発注が遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
現在は使用を満たした製品があるので、新年度に購入予定。
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