分子構造中に窒素を含まないカーボン前駆体高分子の一つであるフェノール樹脂膜に対し、真空中常温において50 keV N+を1e+15 ions/cm2照射し、窒素雰囲気下800℃で炭化して得られたカーボン材料は、O2 + 4H+ + 4e- → H2Oの反応において約0.8 V vs. RHEの酸素還元電位を以て触媒活性を示した。この値は、非注入試料の場合の酸素還元電位、約0.5 V vs. RHEよりも高く、触媒活性が改善されることが明らかになった。この原因を解明するため、炭化処理後の試料について、XPS分析、Raman分光分析、TEM観察を行なった結果、Nイオンを注入した試料では、炭化処理後も触媒活性点とされるピリジン型の構造でC-N結合を維持していることに加え、グラファイト相の形成・成長が促進されていることが明らかになった。これらの結果から、Nイオンを注入したフェノール樹脂は炭化処理後、ピリジン型N含有グラファイト相へ転換されることが明らかになり、このことが酸素還元活性の改善に繋がったと考えられる。以上のように、本研究では、窒素を含まないカーボン前駆体高分子にNイオンを注入・炭素化することによって、得られるカーボン材料に触媒性能を付与することが可能であることを示した。
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