申請者はこれまでに国内の大強度陽子加速器施設(J-PARC)に設置された茨城県生命物質構造解析 装置(iBIX)の開発運用メンバーとしてソフト開発や検出器のデータ精度に係る解析を行い、同装置 の立ち上げや成果創出に大きく貢献してきた。その際、iBIX において収集さ れた標準サンプル(Si)の回折データを用いて、時間方向にテイルをもつ新しいプロファイル関数を 模索したところ、荷電粒子が薄い物質を通過する際の電離損失の確率的な振る舞いを記述する Landau/Vavilov 関数が非対称な TOF 分布を精度よく再現することを見出した。また、多次元空間における弱い反射や反射幅が可変な場合においても、 バックグラウンド評価可能な Statistics sensitive Nonlinear Iterative-Clipping(SNIP)アルゴリズム の適用をいくつかの蛋白質結晶のデータセットに対して試み、その有用性を実証することに成功した。 J-PARC/MLFに建設予定の生体高分子専用高分解能単結晶中性子回折度装置の建設を予定している。本装置は、”創薬標的蛋白質“として疾患の発症に関わっているものが多い巨大複合体蛋白質や膜蛋白質のような分子サイズが大きく格子サイズが大きいものを対象とし、その機能発現機構の全容解明を目指すものである。このような単結晶試料からの散乱強度は弱く、含まれる多くの水分子の水素原子核からのバックグラウンドも分子サイズに応じて大きくなる。このため、上記仕様に合わせた新しいデータ処理のプロトコルを開発した。またこれだけでは、十分に精度を上げることは難しいため、試料からのイベントを抑えた材質および形状と、水分子を多く含んだ蛋白質試料内部で起こり得る影響等を考慮した新しい分光器の設計を行い実現への道筋を確立した。
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