研究課題/領域番号 |
15K04739
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
岡本 芳浩 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (70370369)
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研究分担者 |
塩飽 秀啓 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究副主幹 (10222043)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イメージングXAFS / 元素マッピング / 化学的相関 / 空間分解能 |
研究実績の概要 |
新規に整備した蛍光体を使い、同じ試料で複数元素のイメージングXAFS測定を実施した。最初の分析対象として、土壌中に吸着されたセシウムと土壌の骨格元素の1つである鉄の組み合わせを選んだ。得られたイメージングXAFSデータを新しく開発したプログラムを使用して、鉄とセシウムの間の相関解析を実施した結果、土壌中の鉄の原子価とセシウムの吸着量には強い相関があることを見いだした。セシウムを多く吸着する領域を特定し、その領域の鉄のXANESを導出したところ、3価の鉄酸化物の特徴を示した。逆に、セシウムをほとんど吸着しない領域の鉄のXANESは、2価の酸化物のよく似ていた。このことは、分析した土壌中では、鉄の原子価が2よりも3の場合に、よりセシウムの吸着量が多くなることを示す。これは、SiO4四面体のSiが3価のFeに置き換わることで、土壌成分の層状粘土鉱物における層間の負の電荷が大きくなり、カチオンとして存在するセシウムをより強固に吸着するためと考えられる。次の分析対象として、高レベル放射性廃液のガラス固化試料(非放射性元素を使った模擬試料)を選んだ。ガラス固化試料には、ホウケイ酸ガラスをベースにして、約30種類の元素が含まれており、元素間の相関によって特異な現象が起きていると考えられている。本研究では、その中のルテニウムとロジウムの間の化学的な相関の解明に着手した。土壌中のセシウムと鉄の間の相関解析結果については、分析化学会誌へ投稿し、初期の結果が得られたガラス固化試料の結果については原子力学会にて講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに新しい蛍光体を整備して、複数の元素のイメージングXAFSを可能にした。その結果、本研究の最大の目的である、異種元素間の化学的な相関の解析が可能になった。それを適用する最初の試験対象については、計画ではチタン酸樹脂に吸着させたSr元素、つまりTiとSrの組み合わせだったが、両元素のK吸収端のエネルギー差が大きい(約11keV)ため、解析時における画像位置の補正が困難になることが分かった。H27年度の目的は、イメージングXAFSによる異種元素間の化学的な相関を見られるシステムの構築なので、これよりも容易に解析が扱えるよう、段階を踏むべきと判断した。そこで、H28年度に予定していた、比較的エネルギー差が小さい(約2keV)土壌中のFeとCsの組み合わせでの分析を、前倒しで実施した。その結果、解析は上手くいき、土壌中のFe元素の原子価とCsの吸着量の間に相関関係があることを見出した。試験対象に「化学的な相関関係」があるかどうかは、結果論ではあるが、具体的な実例として見えた点は、この分析法が一定の効果があるものだと証明できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度の蛍光体の整備と複数元素の同時測定、さらに解析ソフトウェアの整備という目的は達成された。イメージングXAFSを利用した異種元素間の化学的相関についても、土壌中のFeの原子価とCsの吸着量の相関という形で、はっきりと見える形にできた。一方で、当初の試験目的であったチタン酸樹脂と吸着側のSrの分析では、11keVという大きなエネルギーの差による問題から、詳細な解析については結果的に先送りになった。分光器に起因するわずかな位置の動きを補正する画像処理が、H27年度の解析ソフトウェアの整備では、十分に追いついていなかったためである。これは当初から想定していた問題であり、H28年度内に対応させる計画である。軽元素と重元素の組み合わせでは同様な問題に加えて、試料の厚みへの依存性も想定されるので、これもH28年度内に併せて検討する。 H28年度においては、解析に関して2つの大きな目的を達成させる。まず、2元素解析プロセスの改良である。現状の解析ソフトウェアは、開発途上ということもあり、すべてマニュアル操作によるもので、汎用性および大量のデータ処理には乏しい。これを、「誰でもできる処理」へと改良する。次に、現状の2元素解析プロセスのマニュアル操作版を残し、それを3元素解析へと拡張する。現状の2元素間の化学的な相関解析に加えて、3元素間の相関解析の試験まで行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
見積もりよりも若干安価にて実際に購入できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度に整備予定のソフトウェア購入時にあわせて使用する。
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