研究課題/領域番号 |
15K04742
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
梶本 亮一 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (30391254)
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研究分担者 |
中村 充孝 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (00370445)
稲村 泰弘 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究副主幹 (80343937)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中性子非弾性散乱 / 熱電材料 / フォノン / 実空間局所二体相関 |
研究実績の概要 |
本研究では、新しいn型熱電材料候補であるLa+Mn置換SrTiO3に対して、J-PARCの中性子実験装置の特色を活かしたマルチスケールダイナミクス測定を行い、(1)この物質が示す低熱伝導の起源を調べるとともに、(2)実空間局所二体相関の導出等の新しい解析も試み、J-PARCの非弾性散乱測定の新たな可能性を探ることを目的としている。 当該年度は(1)に関しては、これまでに得られている粉末中性子非弾性散乱のデータの解析を進めた結果、低熱伝導を示す試料で見られた低エネルギーフォノンスペクトルの異常はなんらかの局所的かつ動的な格子歪みによることが明らかとなってきた。さらに、このフォノンスペクトルの異常に対応して格子比熱の非調和項が増大することもわかった。これらのことは局所歪みが非調和的な格子振動を生み出し、フォノンの寿命を減少させることで熱伝導の低減をもたらしていることを強く示唆する。以上の内容は論文にまとめ、論文誌へ投稿した。 当該年度はさらに詳細な情報を得るために単結晶試料を用いた中性子非弾性散乱実験をJ-PARCで行う予定であったが、施設のトラブルによりその実験は次年度へ延期となった。そこで、その実験に向けて装置デバイスやデータ解析ソフトウェアの改良や分解能計算手法の開発を進めるとともに、当初次年度に予定していた(2)の実空間局所二体相関の導出を先行して実施することとした。その結果、フォノンスペクトルの異常が見られた試料においては、特定の原子間距離の相関に特色あるスペクトルが現れることがわかった。その特定の原子間距離とスペクトルがどのような格子ダイナミクスに対応するのか等の詳細についてはまだ不明な点があり、引き続き解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は粉末中性子散乱実験のデータの解析を進め、比熱、熱伝導のデータと併せて論文を投稿できた。当初予定していた単結晶による中性子非弾性散乱実験が実験施設(J-PARC)のトラブルによりできなくなってしまったことは計画外のことであったが、その代わり次年度に予定していた実空間局所二体相関の解析に先行して着手し、一定の成果を得ることができたため、全体としてみれば研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度から先行して着手した実空間局所二体相関の解析をさらにすすめ、その結果を反映させた論文の投稿を目指す。また、当該年度は実施できなかった単結晶中性子非弾性散乱実験を行う。後者についてはこれ以上の遅れは問題となるので、万が一J-PARCで実験ができなかったときのために海外の実験施設への利用申請も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではJ-PARCの中性子実験装置から得られるデータの解析手法の高度化も目指しており、その一環として当該年度ではデータ解析ソフトウェアを動かす環境となるMatlabを購入する予定であった。しかし、先に述べた通り当該年度で予定していた単結晶中性子非弾性散乱実験の予定を延期することとなったため、それに合わせてMatlabの購入も次年度に延伸することとした。また、上記の目的のためには海外におけるデータ解析手法の進展にも注意を払うことも欠かせないが、次年度に中性子データ解析の国際会議が開催されることがわかったため、研究グループの一名がそこに参加することとし、そのための旅費を確保するために当該年度の予算を一部次年度へ延伸することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
「理由」欄で述べたとおり、次年度使用額はMatlabの購入および国際会議への参加をすることに充てる予定である。
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