研究実績の概要 |
核医学用放射性同位体(RI)は、高感度の診断(癌、脳神経疾患、心疾患等)や治療のために医療の現場で非常に多く使用されている。本研究では、治療用RIとして最近利用されているが全量輸入に頼っているY-90 (半減期2.7日)について、①加速器で得られる高速中性子(数MeV 以上)を用いた効率的な合成方法の検討、②分離・精製法の確立、③副生成物及び不純物の同定、④標識実験などによる評価研究を行い、市場に供給されているY-90と比較し、実用レベル(~1GBq)の大量製造・分離技術の確立を目指し、本手法を利用して国内で代替可能であるか評価する。 合成研究としては、先行研究から実施してきたZr-90(n,p)反応を利用し、高速中性子発生用の炭素標的をBe標的に変更するなど高速中性子発生量の増加を試み、Y-90の生成量を約2倍にすることに成功した。また、Nb(n,α)反応を利用した合成研究も平行して実施し、安価なNbを利用してZr(n,p)とほぼ同量の合成が可能であることも実証した。H28年度には重陽子エネルギーを変更し生成量の増加を確認したが、Y-88など副生成物の影響が増加し、最終的に得られるY-90の放射能純度に影響があることなどを見出し、Y-90合成においては重陽子40MeVでの照射が最適であることを確認した。また、化学分離法に関して、濃縮Zr-90試料の調整方法や、化学分離手法の自動化と、その最適化のための分離手法の再構築などの取り組みを行った。利用している加速器の故障によって研究の遅延が生じ最終年度を1年延長したが、H30年度には分離したY-90を利用した標識実験など、精製RIの評価を進め、本手法の有効性を確認した。このように、本研究期間において、当初の目的である高速中性子を利用したY-90の合成と分離手法の開発を行い、国内での代替の可能性を確認することが出来た。
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