研究課題/領域番号 |
15K04758
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
松浦 真也 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (70334258)
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研究分担者 |
多田羅 景太 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 助教 (00504250)
齋藤 邦彦 滋賀大学, 経済学部, 教授 (00195984)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 数理曲線 / 数理曲面 / プロダクトデザイン / 北欧デザイン / ラメ曲線 / ギーリス曲線 |
研究実績の概要 |
北欧ではラメ曲線がデザインに用いられてきたが、近年、それを拡張したギーリス曲線が登場した。ギーリス曲線やそれに類似の閉曲線・曲面の幾何学的特徴を数学的に調べるのが、本研究の第1の目的である。一方、人間の感覚と幾何学的特徴との関係を、人間工学的手法により調査する。これらの解析結果を元に、デザイン開発を支援する計算機ソフトを作成するのが、本研究の最終目標である。平成27年度には、主に以下の4つの成果が得られた。 1.【幾何学的研究】ギーリス曲線の極限曲線について調べた。ギーリス曲線の6つのパラメータのうち5つを固定し、残り1つを無限大に飛ばした際、どんな極限曲線に収束するか調べた。 2.【人間工学的研究】曲線の曲がり具合に対する人間の感性について、感性工学的手法(マグニチュード推定法)を用いて解析した。具体的には、愛媛大学理学部生60名ほどを対象に、曲率を変えた様々な曲線を提示し、曲線の曲がり具合を直観で数値化してもらった。それを統計処理し、曲率と人間が感じる曲線の曲がり具合の間の関係を導出した。 3.【情報科学的研究】Javaを用い、ギーリス曲線を大量生成するソフトの試作第1段を完成させた。このソフトでは、ギーリス曲線の6つのパラメータのうち、3つを動かした際の形の変化を、アニメーション表示できる。「停止」「巻き戻し」「途中再生」「早送り」等の機能も備えている。 4.【インテリア実物の制作】ギーリス曲線を用いたインテリアの実物を制作するため、木製の表札のデザインを行った。次年度に実物を制作予定である。 なお、上記成果の公表や社会貢献の一環として、2016年3月27日に愛媛大学にて「北欧の魅力 ~ことば、デザイン、そして数学」という名の公開講演会を実施し、松浦が「スウェーデンのど真ん中に隠された数学的秘密」、多田羅が「北欧デザインと日本の意外な関係」と題する講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.【理論的研究】ギーリス曲線のパラメータの値を変化させたとき、幾何学的特徴がどう変化するか分析することを目的としている。27年度には、ギーリス曲線の極限に関する特性、および原点からの距離に関する性質について詳細に調べ、当初の予定以上に詳しい結果が得られた。一方、これら以外の性質については、あまり調べる時間がなかった。従って、全体的な進展具合としては、プラスマイナスゼロと言える。 2.【人間工学的研究】形を認識する際の人間の感性については、ほぼ計画に沿ったアンケート調査を実施することができた。ただし、調査対象を愛媛大学理学部生に限定して実施した。調査の信頼性を高めるためには、対象を理系学生だけでなく、他分野の学生や、他の年代層にも広げる必要があると考えられる。こうしたことから、研究は概ね順調に進展したと言えるが、次年度以降に追加の調査を実施したい。 3.【情報科学的研究】計算機ソフトの作成については、当初、初年度は準備のみの予定であったが、実際には、一部の機能について、既に試作品の完成までこぎつけた。よって、当初の計画以上に進展したと言える。 4.【インテリア実物の制作】ギーリス曲線を用いたインテリアの実物やモデルを制作することについては、今年度はデザインの決定までを行った。年度内に実物の完成までには至らなかったが、あとはレーザーカッターを用いて機械的に処理するだけである。したがって、研究という意味では、年度内に行うべきことはほぼ完了したと言える。その意味で、概ね順調と評価できる。 この他、当初は最終年度の30年度にのみ行う予定であった地域住民向け公開講演会を、27年度にも実施した。講演会には、高校生、高校教員、大学OB・OG、その他の地域住民が併せて約50名ほど聴講に訪れ、盛況のうちに終わった。よって、成果の公表に関しては、当初の予定以上に進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
1.【理論的研究】ギーリス曲線の幾何学的特徴に関する理論的な解析については、これまで、順調に結果が得られている。今後も、これまでと同様、1つ1つの性質について、順を追って地道に丹念に調べていく。 2.【人間工学的研究】形を認識する際の人間の感性についての研究に関しては、適宜、感性工学の専門家等からの助言も得るなどして、マグニチュード推定法以外の最新の手法も取り入れ、より信頼性の高い結果を、効率的に得る工夫を重ねる。 3.【情報科学的研究】計算機ソフトの作成については、幾何学的な考察に基くだけでなく、数値解析的手法も適宜取り入れ、効率化を図る。また、今年度における計算機ソフトの作成過程で、明らかにデザインに向かない形が無駄に大量に生成されてしまい、動作速度が落ちて非効率であるという問題が生じた。その原因の1つは、特定のパラメータ領域において、ギーリス曲線が発散することに起因する。そのため、ギーリス曲線が発散する条件を理論的に求め、該当するパラメータ領域を自動処理の対象から除外するように、プログラムを改良する。 4.【インテリア実物の制作】インテリアの制作は、主として研究分担者の所属機関(京都工芸繊維大学)で行うので、研究代表者、研究分担者間の連携を密にとり、スムーズに作業が進むよう留意する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究打ち合わせのための海外出張について、先方との日程調整が難航したため滞在期間が縮小するなどして、支出額が減少した。これについては、次年度の出張で、滞在期間を増やして、今年度、打ち合わせが不十分だった部分を補う。また、小物インテリアの実物制作を計画したが、デザインの決定等に手間取ったため、実際の制作は次年度に回すことにした。そのため、材料の購入費用に残額が生じ、次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
スウェーデン・ウプサラ大学へ出張し、海外研究協力者であるMaciej Klimek教授と研究打ち合わせを行う。当初は、1週間程度の滞在を予定していたが、27年度の残額を28年度に回すことにより、滞在期間を1週間程度延長し、2週間程度とする。これにより、ギーリス曲線の幾何学的性質や、プロダクトデザイン等への応用について、時間をかけて深く議論することが可能となる。 また、27年度にギーリス曲線を用いて小物インテリアを制作することを計画していた点については、28年度にレーザーカッターを用いて実物を制作する。このための材料購入費の一部に、27年度の残額を充てる。
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