研究課題/領域番号 |
15K04766
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
仲田 晋 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (00351320)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 流体シミュレーション / 数値解析 / 形状モデリング |
研究実績の概要 |
平成27年度は「(A) 対応部位を考慮した曲面変形」と「(B) 変形する障害物を含む空間での流体シミュレーションの実現」について研究を進め,それぞれ以下の成果が得られている. (A) 曲面変形の前段階として,2次元の曲線に対し適切な変形過程を生成するための技術開発を行った.2つの形状表面の数点について対応点を指定し,指定された対応点に基づいて形状全体の対応を自動的に決定,さらにその対応に基づく連続的な形状変形を実現した.現時点では2次元のケースにとどまっているが,3次元の曲面変形への拡張を前提として手法開発を進めているため,将来的に3次元の流体シミュレーションへに適用する際にも同様の手法が適用できる.本成果は今後学会発表等で公表する予定である. (B) 流体シミュレーションを実行しながら障害物を対話的に変形するための技術開発を進めた.これも2次元に限定しているが,3次元への拡張に問題はない.障害物を変形した際には障害物と流体との衝突処理が問題となり,特に流体粒子と障害物の距離の推定が重要であるが,我々は高精度な距離推定が可能な計算モデルを開発し,対話的な流体シミュレーションにおいて効果的に機能することを実験的に確かめている.対話的処理のためには変形の処理速度も重要であり,計算コストを抑えるために我々は高速処理に適した独自の形状表現手法を開発した.この形状表現手法ではユーザのマウス操作に基づく障害物の追加・削除を高速に処理し,特に2つの形状の融合や分離といった位相変化を伴う変形をサポートしている点が大きな特徴である.この成果は国際会議 JSST Annual Conference International Conference on Simulation Technology にて公表済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に取り組んだ「(A) 対応部位を考慮した曲面変形」と「(B) 変形する障害物を含む空間での流体シミュレーションの実現」を中心に現在の進捗状況を以下にまとめる. (A) 2つの異なる曲面に対し,対応する点を複数入力することで連続的な変形過程を自動的に生成することに成功している.結果の妥当性についても検証し,対応点と精度の関係を分析した.我々の提案する手法では2物体間の変形過程を時刻のパラメータとして制御する.つまり2物体間の中間形状は初期形状と最終形状の間の時刻を指定することで定義され,時刻を連続的に変化させることで連続的に推移する変形形状が定義される.この変形の位置関係をベクトル場として定義し,ユーザが指定した対応関係に基づいてベクトル場を適切に生成することが問題の本質であり,これが一定レベルで達成されたと考える.現状ではユーザが指定した対応点に基づいて変形を決定しており,自動化が実現できていない.これは次年度以降の課題とする. (B) 2次元の流体シミュレーションにおいて,シミュレーションの実行中に対話的に障害物を操作できることを確認した.現状では簡易的なシステムであるものの,ユーザが障害物を操作し,ユーザ操作の結果をシミュレーションに反映させることができている.我々が開発した手法は3次元への拡張を想定しており,将来的には自然に3次元の問題へ適用できるものと考える.障害物の形状は閉曲線であり,流体のシミュレーションにおいて曲線の障害物が水の流れに与える影響を定式化し,この定式化が適切に機能することが確認されている.速度については対話性の観点からは必ずしも十分ではなく,改良の余地が残されている.
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今後の研究の推進方策 |
「(A) 対応部位を考慮した曲面変形」 当初の計画では異なる2つの図形の対応部位を自動的に検出する技術の開発を予定しており,これにより形状の変形処理の一部自動化を目指す.検出の自動化のポイントは局所形状の類似性を評価するための基準を決めることである.つまり形状の類似性に応じたエネルギーを定義し,このエネルギーを最小化するような問題に置き換えて,この問題を解くことで2形状間の適切な対応関係を求める.この対応点検出のアイディアは画像モーフィングではすでに提案されており,これを3次元曲面形状に適切に拡張することで解決を図る. 「(B) 変形する障害物を含む流体シミュレーションの高速化」 変形する障害物が存在する空間で流体シミュレーションの高速化を達成するために,シミュレーション,対話的操作処理,描画処理を組み合わせた状態でのアルゴリズムを設計する.障害物をリアルタイムで加工・変形する技術は単体としては開発済みであり(論文としては未公表),さらに障害物の高速描画処理についても独自の手法で実現できている.これらの技術を組み合わせることで,障害物曲面の対話的変形を伴う流体シミュレーションの実現を目指す. 「(C) 陰関数曲面と粒子群の同時可視化」 粒子法流体シミュレーションの可視化では粒子群の描画と液体の描画の2通りのアプローチがある.前者においては高速性と立体構造の視認性が重要であり,粒子に特化した描画処理が必須となる.特に空間的な位置関係が判断できる形で描写するためには陰影付けが有効であり,多数の粒子群を高速に陰影付けする技術を開発する.後者は障害物と液体の立体的な分布を視覚的に提示することが目的であり,液体と曲面の干渉を解消すること,および液面の描写を高速に実現することが求められる.これを解決するために,粒子と曲面に特化した描写技術を新たに開発する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年3月に実施したアルバイトの謝金の支払いが次年度にずれ込んだため.
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次年度使用額の使用計画 |
2016年3月に実施したアルバイトの謝金として執行する.
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