本研究課題は変形物体を障害物とする流体シミュレーションの実現を目標とし,その要素技術の開発を進めてきた.最終年度の成果として,障害物の変形に関わる技術と流体計算の性能向上に関わる技術のそれぞれについて新たな手法を提案している. 1つ目は障害物の変形操作に関わる技術である.流体シミュレーションにおいて障害物は多面体または曲面として定義され,その変形をユーザが対話的に操作するためには任意の場所を曲げる処理が不可欠であり,このための新しい方法を開発している.具体的には,ユーザが指定した関節情報に応じて一つの形状モデルを2つの形状モデルに自動的に分割し,一方を傾けた状態で再度1つの形状モデルに融合するような理論的枠組みを構築することで問題解決を図った. 2つ目は流体運動計算の性能向上に関わる技術である.流体運動の計算では障害物付近での運動のモデル化が重要であり,本研究課題ではこの運動モデルの適切化を目指した.具体的には,流体が障害物付近で密着する効果を追加し,さらに流体と障害物に働く摩擦を適切に反映させることで,より実態に合った流体運動の数理モデルの構築を行っている.流体運動にかかわる課題としては流体追跡のシミュレーション技術もあり,このための新技術の開発も行っている.河川や湖のような広域的な流体シミュレーションのうち,流体の一部分に注目したときに,その局所的な流体がどのように流れるかを追跡する問題は都市工学分野の典型的な問題の一つである.本研究課題では大域的シミュレーションと局所的シミュレーションを分離し,前者は計算コストに優れたモデル,後者は追跡に優れたモデルを採用することで,効率的な流体追跡が可能なシミュレーション技術を開発した.この2つのモデルを融合するためには大域的な情報を局所的な流体に伝達する仕組みが必要であり,本研究では仮想粒子という概念を導入することで解決している.
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