研究課題/領域番号 |
15K04767
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研究機関 | 阿南工業高等専門学校 |
研究代表者 |
松保 重之 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 教授 (90157347)
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研究分担者 |
西村 伸一 岡山大学, 環境管理センター, 教授 (30198501)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モンテカルロ法 / 効率化計算 / 擬似乱数 / 乱数シード |
研究実績の概要 |
研究代表者は、今回の科研採択前に、モンテカルロ(MC)法を効率化する枠組みを開発した。その開発では、MC法の計算効率は乱数の精度に依存することを利用した。具体的には、生成乱数の確率分布が所要分布に最も近くなる擬似乱数列を予め調べてデータベース化し、そのような高精度乱数列をMC計算時に乱数シードで指定して用いるものである(シード選別法)。シード選別法では、一度データベースを作成すれば、普通のMC計算プログラムで、高精度乱数列のシードを指定するだけなので、原理が分かり易く、適用範囲が限定されることが無いという特徴がある。また、効率化のための予備計算・本計算などを必要とせず、精度の良い計算が期待できるので計算効率上も有利である。しかし、有効な方法とするためには、生成乱数が、所要の確率特性に適合している程度を精度良く、かつ、容易に評価できることが必要不可欠となる。たとえば、一様乱数の場合には、生成乱数の一様分布への適合度を精度良く評価する尺度が必要である。本研究では、この尺度として積率を用いる。科研採択前は、枠組み構築と言うことで1次積率(平均)と2次積率(分散)しか考えてなかったので、今回の科研での研究では、高次積率を考慮して更に有効な尺度を見つけることが目的となる。具体的には、一様性の適合度として有効な尺度を見つけるため、初年度(H27年度)で高速計算用ワークステーション(WS)を購入した。初年度は、一様性の評価尺度を多く仮定して、それらの有効性をモンテカルロ積分の数値例を通して検証した。その結果、評価尺度として幾つかの有望候補(積率)を求めた。H28年度では、H27年度の研究成果を踏まえて、モンテカルロ積分を含む更に多くの数値例に適用することにより、最有力候補を求め、その有効性を検証した。その中では、数値例やアルゴリズムに関する多くの調査も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要でも言及したように、研究そのものは、ほぼ順調であるが、その研究成果の、学協会などへの投稿・公表などで若干の遅れが見られる。たとえば、本研究の当初計画では、最適信頼性問題などの情報が得やすい立場のDan M. Frangopol教授(米国リーハイ大学)を訪問して同教授が毎年主宰する信頼性関係のシンポジウムで、海外の著名な研究者とともに情報交換する予定であったが、同教授の体調を考慮して、初年度(H27年度)に引き続きH28年度も同研究室訪問を断念した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である改良型のシード選別法の開発は、ある程度の成果が出てきた。しかし、今までは、開発に多くの時間をかけてきたので、応用面に関する研究が調査を含めて手薄の傾向がある。最終年度(H29年度)は、H28年度に引き続き、他の工学分野への応用について検討予定である。 たとえば、研究代表者は、新改良したシード選別法の乱数を使って地震波のサンプル関数を作成し、それが所要のパワースペクトル密度を、どの程度精確に再現できているか、数値計算例を通して確認する。また、これを構造物に作用させて時刻歴応答解析を行って初通過確率を算出し、初通過の理論解と比較検討を加えることによって、本研究の有効性を示す予定である。また、研究分担者の西村(岡山大学)は、新開発のシード選別法で得られる擬似乱数列を使って、破堤をシミュレーションし、改良したシード選別法の有効性を確認する予定である。 なお、昨年度の実施状況報告書にも記載したが、万が一、上記の予定で本開発法の有効性が上手く確認できない場合には、研究代表者が既に開発している方法で対応する。すなわち、事象再現型MCを領域積分型MC(モンテカルロ積分)に変換して対応する。本研究と似た手法として金融工学分野で目覚ましい成果を収めた積率調整法があるが、生成乱数の確率特性が理論値に近くするように積率調整した擬似乱数列は、積率調整法の研究成果として、確実かつ劇的にモンテカルロ積分の効率を改善できるので、シード選別法でも好結果となることは自明である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度末に、現時点での研究成果発表と情報交換のための海外出張を予定していたが、訪問予定先の米国リーハイ大学のFrangopol教授の体調を考慮して、昨年度に引き続き、取り止めた。また、そのためのシンポジウム参加費なども不要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
工学問題への応用の進捗が遅れ気味である(「進捗状況」参照)。しかし、実応用の計算には、今まで以上の多量データの処理が必要である。今までの開発段階でのモンテカルロ積分では、初等関数の繰り返し計算だったが、実用例の場合、各回の実現象シミュレーションに大量データの処理を必要とすること、また、多くの応用例から応用範囲の確認を行うためである。そのため、新たにワークステーション(WS)を購入予定である。初年度購入の旧WSは、計算動作の安定性などを重視して発売開始から時間が経ったモデルであったが、現在は、廉価でも高速なWSが入手可能となったためである。ただし、たとえば、新WSで応用例Aを実行し、同時に旧WSで別の応用例Bを計算する、というように多くの応用例を検討して、適用範囲を確認予定である。また、当初計画に加えて、オープンアクセスジャーナル等への投稿、学会発表を予定し、そのための料金も必要である。
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