非退化偶格子に付随する頂点代数の部分代数上の弱加群について研究を進めた.格子が正定値である場合には,付随する頂点代数が頂点作用素代数となる.この場合には小さな位数の自己同型に対する不変部分代数の表現はヅーの理論を用いてこれまで詳しく調べられてきた.正定値以外の場合にも,付随する頂点代数はヴィラソロ元の作用によって各整数を固有値とする固有空間に分解される.しかし,各整数に対して付随する固有空間は無限次元になっており,頂点作用素代数になっていない.格子頂点代数自体は簡明な構造をもっているため,その既約弱加群はドンによって分類されているが,その部分代数の表現は,ヅーの理論が使えないため,これまでどうやってその表現を調べればよいのか分からなかった.筆者はランクが1の負定置偶格子の場合を考察した.格子の各元の符号を反転させる位数2の自己同型から得られる頂点代数の自己同型を考え,その自己同型による不変部分代数の弱加群について調べた.特に既約弱加群を分類した.この分類結果から,既約弱加群は,もとの格子に付随する頂点代数の既約弱加群,またはtwisted 既約弱加群の部分加群に同型になることが分かった.一般の頂点作用素代数において,通常の加群に対しては成立していると予想される性質が,弱加群というもともとの予想の範囲を超えて,予想が検証された数少ない例の一つになっている.また,これの結果は,頂点作用素代数,または格子頂点代数の場合を除いて,頂点代数の既約弱加群が完全に分類できた初めての例になっている.
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