Voevodskyの構成したモチーフの三角圏はモチーフの研究における基礎理論として広く用いられているが、ホモトピー不変でない現象を捕まえることができない。Bruno Kahn氏・斎藤秀司氏との共同研究において、それを可能にするような拡張である「モジュラス付きモチーフの三角圏」を構成した。また、ホモトピー不変層の拡張としてわれわれが過去に導入した相互層とモジュラス付きモチーフの関係を研究した。 BlochとSrinivasは混合Hodge構造の理論の拡張であるenriched Hodge構造の理論を提唱したが、その理論は双対性を持たないなどの理由でさらなる拡張が期待されていた。Barbieri-Viale や加藤・Russellなどによりレベル1の場合はそのような拡張が知られていた。Florian Ivorra氏と私の共同研究では、これらを一般のレベルへと拡張した「モジュラス付き混合Hodge構造」を定義した。これは自然な双対性を有する。また、非特異完備多様体と二つの因子の組に対してその相対コホモロジーにモジュラス付き混合Hodge構造を(関手的に)入れることができる。この応用として、加藤・Russellによる「モジュラス付きAlbanese多様体」を1-モチーフに拡張した。 モジュラー曲線のヤコビ多様体の有理点のねじれ部分は、数論における重要な研究対象として古くより研究されていた。同様な問題はカスプをモジュラスとする一般ヤコビ多様体に対して考えることができる。昨年度はYifan Yang氏との共同研究で、レベルが素数の冪の場合にこの問題に満足のいく解答を得ることができた。今年度はFu-Tsun Wei氏との共同研究で、レベルが平方因子を持たない場合に同様の結果を得た。さらに、正標数関数体上でDrinfeldモジュラー曲線に対する類似も得ることができた。
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