研究課題/領域番号 |
15K04774
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大野 泰生 東北大学, 理学研究科, 教授 (70330230)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多重ゼータ値 / 多重ベルヌーイ数 / 反復積分 / 荒川金子ゼータ関数 / 2元3次形式 / 類数 |
研究実績の概要 |
Arakawa-Kaneko型の多重ゼータ関数、およびその負整数点での値に現れて組合せ論的にも興味深い多重Bernoulli多項式を中心に研究を進めた。まず一般多重Bernoulli多項式の容易な算出アルゴリズムを、Kawasakiとの研究によって得た。これはBerunoulli数のAkiyama-TanigawaとChenのアルゴリズムの自然な$t$補間であり、従来のアルゴリズムとBernoulli多項式の補間とが合致していることを示した結果でもある。この結果と、Wayamaとの研究において昨年度得たArakawa-Kaneko型多重ゼータ関数のt補間とその特殊値のt-多重ゼータ値・t多重Bernoulli数表示については、各々投稿準備を完了した。また、Kawasakiとの別の研究では、多重Bernoulli 多項式の双対関係式を得た。また昨年度Kawasakiとの研究において得ていたArakawa-KanekoとKaneko-Tsumuraの多重ゼータ関数の正整数点での特殊値の、組合せ論的別証明を雑誌掲載した。さらに、昨年度のSasakiとの一般多重Bernoulli多項式に対する零化公式の研究で逐次的相互関係を今回発見し、零化公式の汎用性を高めた。このほか、特定のtに関するt- Arakawa-Kaneko多重ゼータ関数の研究、多重ゼータ値環の標準基底問題や2元3次形式の類数とゼータ関数の研究も継続している。 成果発表は名古屋大開催の国際研究集会や日本数学会、第34回代数的組合せ論シンポジウムなどで行った。また、東北大において「Polylogs, Multiple zetas, and related topics」、近畿大において「第11回多重ゼータ研究集会」なる国際研究集会を、また大阪工業大、大阪体育大、京都産業大、東北大において「関西多重ゼータ研究会」を主催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規の結果を複数得ているとともに、それらの成果に起因する新たな疑問と課題、新たな視点に基づく問題意識が芽生え続けている。一刻も早くこれらの疑問を解明していく必要がある。Arakawa-Kanekoのゼータ関数は当初一変数かつインデックスもシングルのものが中心的な存在であって、インデックスがマルチ化したものは、付属的な印象を拭えなかったように思う。ところが近年の成果ではマルチ化した扱いをすることで新たな双対構造が解明されたり、新たな相互関係が見つかるなど、広い範囲で見ることの意義を指摘するような結果も散見される。その流れにあいまって、Kawasakiとの今期の研究成果のひとつは、一般化したベルヌーイ数(具体的には一般多重ポリベルヌーイ多項式)においても、従前のAkiyama-Tanigawaのアルゴリズムが自然と拡張されて成り立ち、しかも極めて無理のない方法で補間されてB型とC型の一般化ベルヌーイ数、Arakawa-Kaneko と Kaneko-Tsumuraの多重ゼータ関数をそれぞれ補間できることを示している。アルゴリズムの単純さとともに、このような構造の優れた対称性が見て取れる部分が長所のひとつと考えられる。他方、Yamamoto積分表示と呼ばれる2-posetに付随する多重ゼータ値の表示においては、通常の多重ゼータ値の対称性は判読しやすいものの、ここに現れたゼータ版とゼータスター版との対称性等々について見て取ることが難しい。この部分の接続的な解明は今後急がれるべき課題のひとつである。このほか多重ゼータのt補間、それに付随するt多重ベルヌーイ数とその性質、また多重ベルヌーイ数の零化公式および、2元3次形式の類対応に付随する虚2次体、グラフの数え上げ関数に関しても研究継続している。なお、現段階までの研究成果については当該年度に5回、共同研究者の登壇も含めると8回発表した。
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今後の研究の推進方策 |
Arakawa-Kaneko型ゼータ関数のt補間により得られた関数においてtを特殊化したものの振る舞いには興味が絶えない。特に現段階までに、発展の見込める成功と思しき結果を誰も得ていない、多重版のクンマー合同式およびその先に見据えるべき岩澤理論への繋がりに対して、今回のt補間は無限の可能性を与えていると考えられる。具体的には今回のt補間および新たなt多重ベルヌーイ数と従来のクンマー合同式との多数の側面からの比較と照合を行い、理論的発展をもたらす開発に繋げたいと考えている。また、Sasakiとの零化公式に起因するArakawa-Kanekoゼータ関数の標準化を軸として、未だ発見されていない関数等式の究明に繋げたいと考えている。Kawasakiとの一連の共同研究のもたらした多重ベルヌーイ数・多項式のある種の双対構造について徹底解明を行うとともにそれに起因してもたらされる未解明の歪対称性について究明したいと考えている。またYamamoto積分表示に関しては、先にも述べたように従前の多重ゼータ値の対称性は容易に解釈できるものの、Kawasakiとの研究で掴みつつある対称性については、いまだに適切な把握はできていないと思われる。しかしこの問題は一刻も早く解決されるべきものであり、ひいてはこの領域で有名な双対性の導出問題やスター版の双対関係式の解明問題に影響を与えるはずの課題である。さらに、2元3次形式の類対応については、概均質の理論とは異なる、代数幾何的対応との関連が近年指摘され始めている。蓄えたデータとその観察結果に基づき、代数幾何的対応の援用が可能か否かを見極めることも併せて行いたい。これらに対する成果の発表は、日本数学会や多重ゼータ研究会、鹿児島整数論研究集会などで口頭発表するとともに、論文化できたものから順次投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画調書に較べ減額支給だったことと所属機関における一時的な業務多忙との兼ね合いにより29年度は海外出張と国内出張の一部を取りやめた。このため次年度使用額が生じたが、次年度も計画調書に較べて予算減額されているので、これに次年度使用額を加えることにより、当初計画に近い出張等研究活動を行う計画である。
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