本年度は、まず昨年度に引き続き有限グラフ束に関するラプラシアンの特性多項式に関する研究 (特に特性多項式の各係数が持つ組合せ論的な意味についての研究) を行った。この特性多項式は Moore 行列式と呼ばれる非可換行列式で定義されるため、通常の線形代数的手法が使えない。しかし Moore 行列式に対する Cauchy-Binet の公式が成り立つことを確認することができた。これを用いることで、特性多項式の係数を cycle-rooted spanning forests と呼ばれる部分グラフに関するモノドロミーを用いて記述できると期待できる。このことについて、現在ニューヨーク市立大学シティカレッジの Gautam Chinta 氏と共同研究中である。 次に、グラフを高次元化した重み付き無限単体的複体に対して、同様にラプラシアンの特性多項式の研究を行った。この特性多項式は Fredholm 行列式と呼ばれるべき級数で関数解析的に定義されるのだが、単体的複体の幾何構造に着目することで、同様にその係数の組合せ論的な表記を与えることができた。以上はテュービンゲン大学の Anton Deitmar 氏との共同研究である。 また、Euler-Zagier 型多重ゼータ関数を一般化した Schur 多重ゼータ関数について、上智大学の中筋麻貴氏、チュラーロンコーン大学の Ouamporn Phuksuwan 氏、および、名古屋大学の Henrik Bachmann 氏と共同研究をおこない、Jacobi-Trudi 公式、Giambelli公式、1-3 公式など様々な関係式を得ることができた。結果は論文にまとめて投稿した。
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