研究課題/領域番号 |
15K04792
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田中 孝明 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (60306850)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 代数的独立 / p進数 / Mahler関数 / 超越数 |
研究実績の概要 |
本研究で対象とするMahler関数とは、独立変数の間の乗法的な変換に関して或る種の関数方程式を満たす関数である。代数的数を成分とする点におけるMahler関数の値の間に、有理数を係数とする多項式で表される関係式が存在するか否か、即ち有理数体上代数的従属か代数的独立かは、Mahler関数の値を複素数として考えた場合には、先行研究においてよく知られている。しかし数論においては、複素数に対して用いる通常の絶対値とは異なる、素数pに対するp進絶対値を考察することも重要である。有理数から成る簡単な形の級数を考えた場合、通常の絶対値とp進絶対値のどちらか一方に関してのみ収束する場合が多い。通常の絶対値に関して収束する有理数から成る級数の和は実数であり、p進絶対値で収束する有理数から成る級数の和はp進数である。また、有理数係数の同一の多項式の根であっても、通常の絶対値とp進絶対値とでは全く異なる形の有理数から成る級数の和としてしか表せない。一方、有理数から成る同一の級数であって、通常の絶対値と、有限個の素数pに対するp進絶対値のいずれに関しても収束するものが存在する。そのような級数の和に関して、典型的なものを考えたとき、Mahler関数の有理数における値として表されることを研究代表者は見出した。従って、Mahler関数の値をp進数として研究することにより、次のような意味で、実数かつ有限個の素数pに対するp進数とみなしてよいと考えられる数の実例を平成27年度の研究において構成した。上述のような有限個の本質的に異なる絶対値に関して収束する、有理数から成る同一の級数の和が、有理数係数のいかなる多項式の根にもならない、即ち超越数であるときは、実数であると同時に有限個の素数pに対するp進数でもあると考えられる。研究代表者はそのような級数の和から成る無限集合が有理数体上代数的独立であることを、Mahler関数の値をp進数として扱うことにより示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題が採択された時点では、p進数体におけるMahler関数の値の代数的独立性に先駆けて、正標数の関数体におけるMahler関数の値について研究する計画であった。後者に関する準備も進んでいたが、前者の研究が順調に進展し、上の「研究実績の概要」で述べた結果が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
採択当初の計画に戻り、正標数の関数体におけるMahler関数の値の代数的独立性について研究する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題が採択された時点では、正標数の関数体上のMahler関数の値の代数的独立性について、初年度に研究する計画であった。そのために正標数の関数体上での種々の関数の性質に詳しい研究者がいるフランスを訪問する必要があると考え、そのための旅費を計上していた。しかし、「現在までの進捗状況」欄で述べたように、研究の進展状況を考慮してp進数体上でのMahler関数の研究を先に行うこととした。正標数の関数体上でのMahler関数についても研究の準備は進んでいるが、フランスを訪れて研究を推進するほどの段階には至っていなかったため、平成27年度のフランス渡航は取り止めた。このことが次年度使用額が生じた理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記の状況を踏まえ、平成28年度は正標数の関数体上のMahler関数の値の代数的独立性に関する研究が順調に進展すれば、フランスを訪問する予定である。そのための旅費として平成27年度分の次年度使用額を使用する計画である。特に、リヨンにおいて、数体と正標数の関数体の類似性に関する研究集会「Analogies Between Number Fields and Function Fields: Analytic and Algebraic Approaches」が開催されるが、もしこの研究集会で超越性および代数的独立性に関する研究討議が行われるのであれば、それに参加する計画である。
|