2018年度は、本課題申請計画の総括となる論文執筆を、分担者の若槻聡氏と集中して行った。執筆過程で、跡公式の応用上で重要となるテスト関数のクラスを群上のコンパクト台スムース関数のフーリエ像から、適当の減少度を設定して定義されるスペクトルパラメーター空間上の関数空間に拡張した。これには、昨年度までに得られていたトレース公式幾何サイドに現れる重み付軌道積分の明示的フーリエ変換が必要となる。 更に、ワイル法則の誤差項改善に関して一定の成果を得ることが出来た。本課題で得られた結果を援用することで、3次特殊線形群の5次元対称空間を3次ユニモジュラー群による商空間のワイル法則の誤差項を既存の結果から対数オーダー改善することができた。当初は第二主要項に関しての成果を期待していたが、古典的な場合との違いを含めてその困難さを認識した。こうした経緯も含めてワイル法則誤差項の表示式に関して新しい知見を得ることが出来た。 また、杉山氏との共同研究では、Jacquet-Zagier公式のカスプ形式類似に関して新たな知見を得ることが出来た。この公式はポワンカレ上半平面のヘッケ合同部分群による離散商上で重さを固定したL2正則楕円カスプ保型形式の絶対値2乗の定める確率測度のスペクトル平均の重さを増大させた際の漸近式を記述するものであるが、双曲数論曲面の量子カオス理論におけるLuo-Sarnakの先行研究では2乗スペクトル平均(quantum variance)の漸近式が知られていた。この2つの公式を組み合わせることで、6次のL関数のある族における中心値の非消滅に関して定量的な結果を得ることに成功した。
|