研究課題/領域番号 |
15K04808
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白石 潤一 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (20272536)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Macdonald多項式 / 変形W代数 / 超幾何級数 / Koornwinder多項式 |
研究実績の概要 |
C型のMacdonald多項式の明示的公式に関して、幾つかの定理・予想を得た。以下、それらを述べる。 (1)ランクが2の場合、C型のMacdonald多項式を4重和の級数として表示する明示的公式が得られた。その証明には、核関数関係式と座標・スペクトル変数の双対性が用いられる。この公式は、ランク2の多項式をランク1のそれで分解するようすを記述するものである(分岐係数)。この分解においては、多重度が2を超える状況が含まれていることに注意する。このように、高い多重度が現れる状況での分岐係数の(例えば幾何学における)意味・性質の研究が今後重要な課題になると考えられる。 (2)ランクが3の場合、長方形の分割に相当するMacdonald多項式の明示的公式の予想を得た。ランク3の多項式をランク2の多項式の多項式で分解するのであるが、長方形の分割の場合には多重度が1のみであるので、簡単な分岐係数が現れることが期待されることから、この予想式の持つ構造とその明示的公式が予想された。 (3)ランク5のA型のMacdonald多項式を折りたたんで得られる級数を、ランクが3のC型のMacdonald多項式で分解することを考察し、その展開係数が常に因数分解することを数式処理プログラムによる実験により観測した。その分解の予想公式を得た。実は、この種の分解は、変形 W代数の表現論の性質から期待されるものであり、さらに若干の類似した展開公式の存在が期待される。B型やD型等、ないし、一般のKoornwinder多項式に関して分解規則を研究する手がかりになるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Macdonald多項式の明示的公式について、分岐係数の構造を研究してきた。その切り口のひとつとして、戸田極限(パラメータtが零の極限)について丹念に研究した。それは、幾何学的表現論の立場からの研究とも深く関連する。さらに、変形W代数の表現論からの知見を加えることで、C型やD型のMacdonald多項式の明示的公式に特徴的な現象をいくつか知ることができた。上述の研究実績の概要に述べた事柄と合わせて、戸田極限における明示的公式の構造は、その背後に完全交差であるような代数多様体の存在を示唆することが朧げながら見えてきたものと考えている。これまでに得られた幾つかの予想の証明のためには、まだ乗り越えなければならない課題があり、そのうちの幾つかは、研究計画立案の段階では見えていなかった新しいものである。これらの状況から判断すると、Macdonald多項式の明示公式と分岐規則の理解について、やや全体像を膨らませながら、少しづつではあるが、進んでいるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Macdonald多項式の明示公式と分岐規則について、これまでに得られた定理・予想を基に、全体像が見渡せるか、もしくは、興味深い特殊例がはっきり見える段階まで理解を深めることを今後の研究の推進方策とする。これまで進めてきた分岐規則に関する実験を今後も継続し、新しい公式・予想を導き、全体像の理解へ向けての経験と蓄積をさらに深める。そのような明示的公式の背後に隠されている幾何学的表現論の可能性を追求する。 また、Ding-Iohara-Miki代数の頂点作用素による(Nekrasov分配関数的)多重級数の研究を進め、affineリー環に付随したMacdonald多項式とその明示的公式について研究を進めるつもりである。そのような無限重の超幾何的な級数を研究することは、Macdonald多項式の楕円類似であるRuijsenaars系の固有関数の研究のための礎石となると考えられる。実際、Ruijsenaars系の退化極限としての戸田極限(量子affine戸田理論)についての準備的な研究に関して、私はこれまでの研究において一連の予想を得てきた。さらに、Ruijsenaars系を記述するために現在欠けている部分については、Macdonald作用素と可換な積分作用素の族の理論がそれを補充するという新たな可能性が見えてきている。この方向の研究も、幾何学的表現論に立脚するものであり、Koornwinder多項式の分岐規則の理解と合わせて、強く進めてその完成を目指したい。
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