モジュライ空間のコンパクト化において、退化した適切な対象を抽出し研究することが重要である。またこのような対象とともに、コンパクトな多様体に関する不変量等を用いて、モジュライ空間のコンパクト化から、モジュライ空間自身を研究へ向けて、コンパクト化の意義のひとつである。本研究では、アーベル多様体のモジュライ空間において、適切な退化対象を対数幾何学のなかに見い出し、対数アーベル多様体論を構築し、この方面の研究への応用を目指している。対数アーベル多様体に関する本研究は、加藤和也氏(シカゴ大学、米国)、中山能力氏(一橋大学)との共同研究である。 本年度は、対数アーベル多様体のモジュライ空間における局所的な研究、対数アーベル多様体に関する形式幾何と代数幾何の対応、対数アーベル多様体を代数多様体でとらえるモデルに関する研究を進めた。具体的には、対数アーベル多様体のモジュライ空間の局所的性質として、局所モジュライ空間を構成した。これは、アーベル多様体の代数的トーラスによる拡大のなす多様体上、許容対合から定まるトーリック多様体で記述される。また、今後、大域的なモジュライ空間を構成する際に利用する予定である。対数アーベル多様体に関する形式幾何と代数幾何の対応は、従来の代数幾何における射影代数多様体の対応を用いたマンフォードの構成を、対数アーベル多様体へ拡張した成果となっている。対数アーベル多様体は、従来の代数幾何の範疇で考えられる退化アーベル多様体を、対数構造を用いて、対数代数空間という対象へ拡張し、群構造まで扱える良い対象である。そのような対象への拡張は本理論における基礎であり、また、この対応の構成にあたり、対数アーベル多様体のモデルから対数アーベル多様体を再構成する表示等を研究し、成果を得た。
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