代数幾何の基本的な定理に,種数 g の射影代数曲線 X とその上の直線束 L に対して,L の次数が 2g + 1 上であれば,L の大域切断によって X を射影空間に埋め込めるというものがある.また,その高次元化に随半束の大域切断を考えるものがある.本研究では,この古典的な定理の非アルキメデス幾何における類似を,京都大学の山木壱彦氏と共同で進めた.すなわち,非アルキメデス体上の種数 g ≧ 2 の射影代数曲線 X とその上の直線束 L に対し,X の解析化空間の中にあるスケルトンが,L の次数が 3g-1 以上であれば,大域切断によって整構造を保ったままトロピカル射影空間に埋め込めること(忠実トロピカル化)を示した.また随半束の大域切断を用いた高次元化も考え,代数幾何の藤田予想と関連していることを示した.平成29年度には,この方向で,トロピカル多様体上の直線束の正値性の概念について研究を進めた.
また,力学系において,アフィン平面の自己同形写像にへノン写像とよばれる重要なクラスがある.本研究では,台湾の Liang-Chung Hsia 氏と共同で,へノン写像の族を考え族の代数・数論的な性質を,unlikely intersection の観点から調べた.この研究については,平成29年度の 11 月に行われた BIRS Workshop on Arithmetic and Complex Dynamics で講演する機会を頂いた.
また,Q-代数上に定義されたアフィン平面の2次の三角自己同形写像の逆写像の次数についての研究を行った.さらに,京都大学の吉川謙一氏と向井茂氏とボチャーズのΦ関数と終結式およびボチャーズのΦ関数と楕円 j 関数との関係について共同研究をするという機会に恵まれた.
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