研究実績の概要 |
本研究はカタネーゼおよびピニャテッリによる小さな種数のファイバーを持つ代数曲線束についての構造定理を他の場合に拡張し,それを具体的な代数曲面の研究に応用することを目的としている.本欄においては昨年同様,研究代表者の部分のみを記す.前年度までに第 1 Chern 数 9, 構造層の Euler 数 5 で,第 1 Chern 類が第 2 整係数コホモロジー群の中で 3 で割り切れる極小複素代数曲面について,その構造定理,モジュライ空間および標準写像の振る舞いの記述を得たことから,本年度はそれをうけて,もともとの曲線束構造の構造定理を探求すると同時に,第 1 Chern 数が整係数コホモロジー群のなかでたくさん割れる曲面の研究を開始した.昨年度までの研究の中で,副産物として,チリベルト,フランチャ,メンデススロペスによる論文にあらわれるある代数曲線束が実際には存在しないことが示せたので,そこでの方法をより一般の場合に試そうという意図であったが,本年度は論文の執筆に取り組んでいたこともあり,いくつか例についての計算を試みただけの段階で,明確な結果を得るまえに年度末を迎えた.これまで得た結果(上記のもの)については,それぞれ高知大学,高知工科大学,神戸大学で行われた三つの研究集会で口頭発表を発表するとともに,論文にまとめあげ,arXiv mathematics に載せた.ファブリツィオ=カタネーゼ氏およびイングリッド=バウアー氏と議論するためにイタリアに行く予定であったが,コロナウィルス蔓延のため研究集会が急遽一年延期となり,本年度中の議論ができなくなってしまったのは残念であった.
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