研究実績の概要 |
本研究の目的は,代数曲線束の不変量の値の組を座標空間上の格子点にプロットした際の分布領域に関するジオグラフィーの問題の解決にあり, (i) 不変量の間に成り立つ不等式を高次被覆の理論を用いて究明し,おおよその分布を把握する, (ii) 高次被覆またはモジュライ空間上の曲線の元に代数曲線束の2種類の構成法を開発し,実際に代数曲線束を構成して格子点の分布する領域を明らかにする, ことを目指している. これらの研究目的に沿って, 平成27年度の研究では,まずクリフォード指数が0である代数曲線束に関してある数値的な条件を満たすときに現れる曲線束以外の特殊な構造を解析しながら,代数曲線束の存在性を考察した. この構造が障害となることで実際には代数曲線束が存在し得ないことを示すことに成功した. さらに, 代表者のこれまでの研究では射影直線束の2重被覆によりクリフォード指数が0である代数曲線束の構成を行ってきたが,新たに双2重被覆を用いて多数の代数曲線束を構成することにより, スロープの値が大きい代数曲線束の存在性を示すことができた. この成果は上記(ii)に関するものである. これらの結果とこれまでの研究成果を合わせると, 完全にではないもののクリフォード指数0の代数曲線束の分布がおおむね把握できたことになる. また, クリフォード指数が1である代数曲線束について, Tanによる非ガロア3重被覆の理論を用いて, 分岐跡上の一般点の逆像が二点となる射影直線束の3重被覆の場合に関して(i)について考察した. その結果として, 不変量間の不等式を証明することでき, ある数値的条件をもつ代数曲線束が実際には存在しないことを示すことができた. 本研究課題に関する最新の研究動向の調査と研究討論を実施することを目的に, 平成28年1月に「代数幾何学研究集会-宇部-」を開催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
クリフォード指数が0である代数曲線束の分布領域をおおむね知ることができたことについては, 順調に進展していると思われる. 一般の3重被覆で考察した場合に現れる曲面特異点の代数曲線束の不変量への寄与する項には, 一点の逆像が二点となる分岐跡の特異点の情報に由来する項と一点の逆像が一点となる分岐跡の特異点の情報に由来する項の2種類がある. このことが障害となり,クリフォード指数が1である場合について上記(i)の不変量の間に成り立つ不等式に関しては一般に一点の逆像が二点である因子だけを分岐跡とするときのみに成果を得るにとどまった. 当初の研究実施計画に掲げたすべての射影直線束の3重被覆を対象とすることができなかったことを踏まえ, 本研究課題の達成度をこのように評価した.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究を継続しながら,当初の研究実施計画にある目標の達成を目指す. 特に以下の3点に関して研究を推進していく. まず, 昨年度得られたクリフォード指数が0である代数曲線束に関する成果をまとめ, 論文として完成させる. 次に, 昨年度で達成することのできなかった一般の射影直線束の3重被覆で与えられる代数曲線束の不変量間の不等式を求める. そのために,特異点の不変量への寄与を特異点の例外因子を精密に解析していく. 3点目として, 平成28年度以降の研究実施計画の遂行する. 特に, モジュライ空間上に曲線を与えて, それに付随するモジュライ写像の安定化により代数曲線束を構成する方法の実現を目指す. なお昨年度も開催した「代数幾何学研究集会-宇部-」を本研究課題の中間発表, 研究討論と関連する研究成果の調査を目的に開催する.
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