研究実績の概要 |
代数曲線束の不変量の組を座標としたジオグラフィーの問題に関して, 本研究では, (i) 相対的標準因子の自己交点数, 相対的オイラー・ポアンカレ標数とファイバーの種数などの不変量の相互関係を与える不等式を得ること, (ii) 実際に代数曲線束を構成することにより分布領域を明らかにすることが目的である. 昨年度から引き続き, クリフォード指数が1である代数曲線束のジオグラフィーの問題に取り組んだ. ほとんどのクリフォード指数が1である代数曲線束は射影直線上の3重被覆の構造をもつ. (i)を解決する方針は, この3重被覆の構造に対してS.L.Tanによる代数曲面の3重被覆の理論にある不変量公式を用いて, 相対的標準因子の自己交点数と相対的オイラー・ポアンカレ標数を求め, これらの式の分岐跡の特異点の重複度に由来する補正項を評価することである. 昨年度は, 1点の逆像が異なる個数となる2種類の分岐跡のデータを含むことが障害となり, 1点の逆像が2点となる分岐跡だけをもつ場合に成果を得るにとどまった. 今年度は, ファイバーを半安定曲線として, 射影直線束の3重被覆の標準解消に現れる例外因子に課される条件を精密に見て, 補正項の評価に反映させて, 不変量間の不等式を得ることができた. さらに, (ii)に関して, 射影直線束上に因子を具体的に多数与えて, これらを分岐跡とする巡回3重被覆を構成した. これにより, クリフォード指数が1である代数曲線束の座標空間上での分布領域をスロープが低い場合のみではあるが, 明らかにすることができた. また, 昨年度に挙げたクリフォード指数が0である代数曲線束に関する成果を論文にまとめ, 投稿した. 平成29年1月には, 本研究課題に関する研究動向の調査と研究討論を目的に, 「代数幾何学研究集会-宇部-」を開催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クリフォード指数が1である代数曲線束に関して, ファイバーを半安定曲線と限定したものではあるが, 相対的標準因子の自己交点数, 相対的オイラー・ポアンカレ標数とファイバーの種数などの不変量の相互関係を与える不等式を得ることができた. この不等式から, 代数曲線束の座標空間上での分布領域をおおよそ知ることができる. この予想される分布領域に対して, 上記で構成した射影直線上の3重被覆が広範囲に分布網羅していることから, 本研究課題のクリフォード指数が1である場合に関しては限定的でありながらも進展していると考える. 以上のことから, 本研究はおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後もこれまでの研究を維持しつつ, クリフォード指数が2である代数曲線束のジオグラフィーの問題に取り組む. 特に, 以下の3点に関して研究を進めていく. 第一に, 上記のクリフォード指数が1である代数曲線に関する成果を論文として完成させ, 投稿する. 第二に, クリフォード指数が2である代数曲線束に関して, 不変量の相互関係を与える不等式の究明する. 一般のクリフォード指数が2である代数曲線束のもつ射影直線束の4重被覆の分岐跡はさらに多くの種類があり, クリフォード指数が1である場合と同様に研究の遂行が難航すると予想される. 残りの研究期間を勘案し, 特に被覆構造が双2重被覆と巡回4重被覆に限定して考察する. また, ジオグラフィーにおける代数曲線束の存在性に関して, これらの被覆の構成には代数曲面の2重被覆の構成を応用することができるので, 比較的に容易にできると考えている. 第三に, 昨年度の研究の推進方策で挙げたモジュライ空間上にモジュライ写像の像となる代数曲線を与えて代数曲線束を構成する方法の確立を引き続き目指す. ジオグラフィーの問題へ応用するには決まった条件を満たす代数曲線を与える必要があり, この点が懸案となっていた. 今年度実施した位相幾何学の最新研究の調査した対象の中にこれを解決する可能性のあると考えられる研究があり, これを詳細に調査して解決につなげていきたいと考えている.
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