研究課題/領域番号 |
15K04834
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井ノ口 順一 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40309886)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ループ群 / 非コンパクト対称空間 / 調和写像 / ハイゼンベルグ群 / ベルンシュタイン問題 / ガウス曲率 |
研究実績の概要 |
「リーマン面で定義され双曲平面に値をもつ調和写像のループ群論による構成と曲面論への応用」について以下の成果を得た。1、3次元双曲空間内のガウス曲率Kが負(K=-1は除く)である曲面に対し2次元球面(-1<K)および双曲平面(-1<K<0)に値をもつ写像が対応させられることを示した。とくにその写像が調和写像であることとKが一定であることが同値であることを証明した(ルー・ヴィルムス型定理)。これは本研究で確立を目指しているガウス曲率一定曲面(-1<K<0)のループ群論的構成法の出発点となる成果である。 2、3次元ハイゼンベルグ群Nilの極小曲面に応用し、ベルンシュタイン問題を考察した。FernandezとMiraは指定された正則2次微分をもつ極小曲面が2径数族をなすことを示したが2径数の意味は解明できていなかった。ベルンシュタイン問題について以前の研究課題(基盤研究(C)24540063)で新しい証明方法(ループ群論的証明法)を見出していたが、本研究では「ループ群論的証明法」を改良し2径数の幾何学的意味を解明することに成功した(論文[3]として発表)。 3、3次元ハイゼンベルグ群Nilは佐々木多様体の典型例である。実績1の研究過程で得られた成果の他の幾何学への応用可能性を精査するため、曲線に関する幾何学的変分問題(磁場曲線)を一般の奇数次元の佐々木空間形で考察した。一般の奇数次元の佐々木空間形内の接触磁場曲線の分類に成功した(論文[4]として発表)。 4、3次元de Sitter時空内の時間的平坦曲面はこれまで3次元球面の平坦曲面のローレンツ幾何学的類似という観点から研究されてきた。時間的平坦曲面がモンジュ・アンペール方程式で記述できることに着目し、3次元双曲空間の平坦曲面に対する表現公式に相当する表現公式を確立した(論文[2]として発表)。 5、複素グラスマン多様体、 例外型リー群F4、例外型対称空間F4/Sp(3)・Sp(1)の重調和等質超曲面を分類した(論文[1]として発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度は「リーマン面で定義され双曲平面に値をもつ調和写像のループ群論による構成」による3次元双曲空間内のガウス曲率一定曲面の構成法に向けて、基礎理論の確立を目標としてきた。また「3次元ハイゼンベルグ群Nilの極小曲面論への応用」を目的としていた。3次元双曲空間内のガウス曲率一定曲面については以前の研究課題(基盤研究(C)24540063)において、他の空間へ一旦、曲面を移行する方法を介してループ群論的構成法を得ることに成功していたが、具体的に曲面を構成する上では、より直接的な(双曲幾何で閉じた)構成法が望ましい。そのためには本研究の着想でもあった双曲幾何で閉じた「ルー・ヴィルムス型定理」を確立することが必須であった。27年度中にこの目標が達成できたため順調に研究が進展していると判断できる。ハイゼンベルグ群Nil内の極小曲面については、FernandezとMiraの定理に登場しながら、その幾何学的意味や役割がまったく不明であった2つの径数の意味・役割を、ループ群論的ワイエルシュトラス構成法を用いて解明することができた。 この解明により標準例(canonical example)とよばれている極小曲面をループ群論的ワイエルシュトラス構成法で構成する処方が明確になった。この点でNilの極小曲面論に大きな貢献ができたと評価できる。佐々木多様体の磁場曲線、反de Sitter時空の平坦曲面、対称空間内の重調和等質超曲面などの関連する研究における成果も得られており、総合的に「おおむね順調」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)27年度の成果である「ルー・ヴィルムス型定理」を出発点とし、3次元双曲空間内のガウス曲率Kが一定であり-1<K<0をみたす曲面の直接的な(双曲幾何で閉じた形式の)ループ群論的構成法の確立に向けて研究を継続して行う。本研究は、これまで本研究者が行ってきた3次元定曲率空間内のガウス曲率一定曲面の研究と大きな相違点がある。それは完備性の問題である。これまでに研究成果を挙げてきたクラスは完備な曲面が存在しなかったが、このクラスは完備な曲面が存在することが知られている。そこで完備な曲面を得るためには、どのようなデータを与え得るべきかを精査する必要がある。この点を主要な観点として今後の研究を継続する。2)3次元反de Sitter時空の時間的平坦曲面に対する表現公式をもとに, 空間的極大曲面に対するループ群論的構成法の確立可能性を探るため反de Sitter時空内の曲面に対する「ルー・ヴィルムス型定理」を考察する。3)27年度に得た成果の証明方法・証明の過程で得た研究成果を、種々の観点から検討し、他の幾何学的問題への応用を考察する。また3次元等質リーマン多様体および一般次元のリー群内の曲線・曲面についても27年度の成果をもとに調和写像の観点から検討する。 研究の進展・競合する海外の研究者の研究成果発表・研究動向に応じて、研究順序などの適時修正を行う。
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