本研究の目的は統計多様体の一般化した共形構造の幾何学を解明し,その幾何学の統計学や可積分系理論などへの応用することである.統計多様体上で Riemann 計量の共形変形やアファイン接続の射影変形を議論する場合,適合性の条件のために計量と接続は独立して変形ができず,統計多様体の一般化した共形変形が生じる.変形指数型分布族とよばれる統計モデル上でこの幾何学を考える場合,エスコート分布とよばれるもとの確率分布に付随した確率分布と,エスコート分布に関する期待値が有用であることが知られていた.平成30年度までの研究において,エスコート分布は階層構造を持って現れ,幾何学構造も階層的に定義されることを解明し,特に変形指数型分布族に対してその階層構造を具体的に計算している. 研究を延長した令和元年度は,再定式化した変形指数関数から構成される統計モデルと,再規格化問題に関する研究成果を論文としてまとめ,研究成果発表を行った.さらに,確率空間のスケーリングと変形指数型分布族の関係,エスコート期待値とエントロピーのゲージ不定性,複素多様体上の捩れを許す統計構造とアファイン分布との関係など,本研究に関連した多くの考察も得られた.例えば,エスコート分布とエスコート期待値には階層構造があることが分かっていたが,エスコート分布を細分化するという新しい発想が得られた.この結果,エントロピーは同一であるにもかかわらず誘導される情報幾何構造は異なるという,エントロピーのゲージ不定性という結果が得られた.本研究課題は終了となるが,これらの問題については引き続き研究を継続したい.
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