研究課題/領域番号 |
15K04844
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
太田 慎一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00372558)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フィンスラー多様体 / 曲率 / 熱流 / 関数不等式 |
研究実績の概要 |
まずフィンスラー多様体の幾何解析について、前年度の研究で進めた重みつきリッチ曲率と熱流に関するΓ解析の応用として、幾つかの関数不等式を示した。フィンスラー多様体上の熱流は非線形であり、Bakryらによる通常のΓ解析の枠組には入らない。しかし、代表者とSturmによるBochner不等式 (2014) を用いることで、Γ解析の手法をフィンスラー多様体に一般化することができる。前年度はこの手法によりBakry-Ledoux型の等周不等式を示した。今年度得られた成果は具体的には以下である。リッチ曲率の変形である重みつきNリッチ曲率が正数K以上であるフィンスラー多様体(とその上の測度の組)に対し、ポアンカレ不等式(Lichnerowicz不等式)、対数ソボレフ不等式、ソボレフ不等式を示した。ここでNは実パラメータであり、通常は「次元の上限」と解釈されることが多いが、Nが負の状況の研究も近年進められている。上で挙げた不等式のうち、ポアンカレ不等式はNが負でも成立し、対数ソボレフ不等式とソボレフ不等式はNが負のときは成り立たない。また不等式の形や係数はリーマン多様体と同じであり、最良の評価を与えている。唯一の違いはソボレフ不等式に現れるパラメータpの許容範囲であり、これがフィンスラー計量が対称か否か(つまり、対応する距離関数が対称か否か)によって異なる。証明法に由来する技術的な差異ではあるが、対称性の有無が与える興味深い影響と考えている。
この他に、Nicola Gigli氏(SISSA)、Christian Ketterer氏(Freiburg大学)、桑田和正氏(東北大学、連携研究者)と共同で、リーマン的曲率次元条件を満たす測度距離空間のラプラシアンが最小の第一固有値を持つ場合の剛性定理の研究を行い、論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重みつきリッチ曲率が正定数以上のフィンスラー多様体の関数不等式は、Γ解析の自然な応用として予定していたものであり、ほぼ予想通りの成果が得られた。また、関数不等式と前年度に得られていた等周不等式を合わせて、フィンスラー多様体上の非線形Γ解析に関する理論を整理した概説論文「Nonlinear geometric analysis on Finsler manifolds」を執筆した。非線形Γ解析にはまだ多くの応用の可能性があり、この論文が理論の普及と発展に役立つことを願っている。
Gigli氏、Ketterer氏、桑田氏との共同研究は、当該科研費などを使用して開催した国際研究集会に3氏を招聘した際に始まったものである。代表者が3氏にリーマン多様体の場合の結果を紹介したことがきっかけとなり、それぞれがリーマン的曲率次元条件を満たす測度距離空間についてのこれまでの研究で培ってきた技法を発展させることで、研究が進められている。多忙のため論文の執筆に時間がかかっているが、測度距離空間上の幾何学・解析学の最近の様々な進展を駆使する興味深い研究となっている。
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今後の研究の推進方策 |
フィンスラー多様体の非線形Γ解析の研究は次年度以降も継続する。特に重みつきリッチ曲率のパラメータNが負の状況では、リーマン多様体でもわかっていないことが多く、様々な問題に取り組むことで全体像を明らかにしていきたい。この他に、等周不等式や関数不等式を導くもう一つの強力な手法である局所化についても、リッチ曲率の下限以外の曲率条件への適用などを計画している。
一方、当研究課題の目標の1つであるノルム空間・フィンスラー多様体上の凸関数の勾配流の研究については、今年度も取り組んだものの具体的な進展はなかった。研究協力者のMiklos Palfia氏(Sungkyunkwan大学、ハンガリー科学アカデミー)とは、研究集会などで度々会う以外にも継続して連絡を取っており、引き続き手掛かりを探していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
開催した研究集会において、当初の想定よりも他からの援助が多く得られたため、当該科研費の使用が抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は多額ではなく、次年度の使用計画に大きな変更はない。
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