今年度の研究では、まず距離空間上の準凸関数の勾配曲線として現れる自己収縮曲線(self-contracted curve)の研究を継続し、N. Lebedeva氏、V. Zolotov氏と共同で自己収縮曲線の弧長有限性をより広いクラスの距離空間へ拡張した。昨年度の研究では非正曲率を持つ距離空間(CAT(0)空間)での定量的な評価を与えていたが、今年度の研究ではZolotov氏の確立した自己収縮曲線の弧長有限性の判定条件を用い、曲率が下に有界な有限次元距離空間(Alexandrov空間)でも弧長の有限性が成り立つことを示した。これにより曲率の上下両方の評価の下で弧長有限性が確立され、また有限点集合の等長埋め込みへの応用も得られた。証明はラムゼー理論を使うもので、距離空間の埋め込み問題などを扱う「定量的な幾何学」の枠組みとも関連する。
また、首都大学東京の高津飛鳥氏と共同で、重みつきリーマン多様体における次元に依らない対数ソボレフ不等式の等号成立条件を調べ、論文を執筆中である。無限次元の重みつきリッチ曲率が正定数以上である重みつきリーマン多様体では対数ソボレフ不等式が成り立ち、その等号成立条件に関しては、特にユークリッド空間の枠組みで解析的な興味からの研究がCarlenらにより行われていた。本研究では、これをリーマン多様体に一般化し、Klartagにより局所化の理論を適用することで、対数ソボレフ不等式の等号が成り立つのは一次元ガウス空間との直積の場合に限ることを示した。これは、同じ曲率条件の下でのポアンカレ不等式や等周不等式の等号成立条件と同じ現象である。リーマン多様体での幾何学的な不等式の等号成立条件や安定性は近年注目を浴びており、それに貢献する結果である。
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