研究実績の概要 |
n次元複素ベクトル空間内の2次元部分空間全体のなす Grassmann多様体 Gr(2,n) には、複数の Lagrangeファイブレーションの構造を入れることができる。より正確には、n角形の三角形分割を指定するたびに Lagrangeファイブレーションが構成される。これまでの研究で、それらの Lagrangeファイバーに対して、正則円盤を数え上げることで定まる Floer理論的な“不変量”のひとつである、ポテンシャル関数を計算した。ポテンシャル関数は代数トーラス上の関数とみなすことができるが、異なる三角形分割に対応するポテンシャル関数たちは適当な座標変換で同一視することができる。2016年度は、ポテンシャル関数たち(を貼り合わせたもの)が Gr(2,n) のミラー(スーパーポテンシャル)と一致することを示した。Gr(2,n) のミラーは Marsh-Rietsch により Gr(2,n) の稠密な開集合とその上の正則関数の組として構成されている。Gr(2,n) の斉次座標環はクラスター代数の構造を持っており、クラスター変数の選び方が n角形の三角形分割の取り方に対応していることが知られているが、上述のポテンシャル関数たちを同一視する座標変換はそのクラスター変数の変換則と一致している。さらに、その変数変換は以下のようにシンプレクティック幾何的に導出される。異なる二つの三角形分割に対応する Lagrangeファイブレーションに対し、それらをつなぐ Lagrangeファイブレーションの族を考えると、それが特異ファイバーを持つことから、正則円盤の挙動が不連続に変化する“壁”が生じる。これに対し、クラスター変数の変換公式が正則円盤の数え上げの壁越え公式と一致することを証明した。
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