研究実績の概要 |
n次元複素ベクトル空間内の2次元部分空間全体のなすGrassmann多様体 Gr(2,n) に対し、そのミラーはある非コンパクト複素多様体 Y とその上の正則関数 W の組 (Y,W) として与えられる。これまでの研究で、Gr(2,n)上の適当な完全可積分系のLagrangeトーラスファイバーに対し、それに境界を持つ正則円板を数え上げることにより定まる「ポテンシャル関数」を考えると、ミラーのほとんどの部分を構成できることを示した。一方で、この方法では復元できない (Y,W) の部分にも重要な情報が含まれることがあることが分かっている。このミラー側で欠けている部分は完全可積分系の特異ファイバーに対応すると考えられるため、2017年度はその特異ファイバーを調べることを中心に研究を行った。上述のミラーのFloer理論的構成を特異ファイバーにまで拡張するためには、Lagrangeはめ込み(自己交差を持つLagrange部分多様体)に対するFloer理論が必要となるが、Gr(2,n)の場合は特異ファイバーの次元が高いだけでなく、自己交差も高次元で起こっているため、この場合を直接調べるのは難しい問題である。そこで、まず複素2次曲面の場合に完全可積分系の特異ファイバーを詳しく調べた。複素2次曲面は単にGrassmann多様体のトイモデルであるだけでなく、4次特殊直交群の旗多様体でもあり、これ自身ミラー対称性や表現論で重要な空間である。2次曲面の場合には、完全可積分系の特異ファイバーやそれに境界を持つ正則円板の幾何を詳細に調べることができた。これはGrassmann多様体の場合を考察する際の重要な手掛かりになると考えられる。
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