研究実績の概要 |
複素Grassmann多様体上の完全可積分系に対するFloer理論と、そのミラー対称性との関係について研究している。Grassmann多様体のミラーは、双対Grassmann多様体のある開集合と、その上の正則関数の組となる。このミラーは、クラスター変数とよばれる変数を座標にもつ代数トーラス(クラスター座標近傍)たちを、変異とよばれる座標変換で貼り合わせることでできるクラスター多様体の例である。Grassmann多様体の場合はPlucker座標がクラスター変数の一部であり、それらの間の変異はPlucker関係式に他ならない。 これまでに、2次元部分空間全体のなす平面Grassmann多様体の場合には、完全可積分系に対するFloer理論からミラー側のクラスター座標近傍が全て得られること、さらに、異なる完全可積分系に対するFloer理論の壁越え公式がミラー側の変異に一致することが分かっている。 今年度は6次元ベクトル空間内の3次元部分空間全体のなすGrassmann多様体 Gr(3,6) の場合を考察した。Gr(3,6) はPlucker座標以外のクラスター変数が現れる最も次元の低い例であるため、この場合を理解することはより次元の高いGrassmann多様体や一般のクラスター多様体を調べるための重要なステップである。平面Grassmann多様体の場合以外には組織的に完全可積分系を構成する方法が知られていないため、ここではGelfand-Cetlin系とよばれる完全可積分系に対するFloer理論について詳細に調べた。この場合には、壁越え現象が起こり得る場所が4カ所あり、それぞれに対する壁越え公式がミラー側のクラスター変数の間の変異と一致することが分かった。特にその一つはPlucker座標ではないクラスター変数が現れる変異であり、壁越え公式の興味深い例が得られたといえる。
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