研究課題/領域番号 |
15K04861
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
黒瀬 俊 関西学院大学, 理工学部, 教授 (30215107)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 統計多様体 / 統計部分多様体 / ダイバージェンス関数 / 幾何的ダイバージェンス / 等積中心アフィン曲線の運動 / KdV方程式 / 円周の微分同相群 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、統計多様体の幾何と、KdV方程式が付随する等積中心アフィン平面曲線の運動を中心に研究を進め、具体的には以下のような成果を得た。 1.統計多様体の幾何構造に適合した二点関数(ダイバージェンス関数)について研究した。その結果、1-共形平坦な統計多様体の統計部分多様体に対して、幾何的ダイバージェンスが部分多様体に引き継がれるための必要十分条件を与えた他、ごく最近に別の研究者によって最適輸送理論の観点から導入されたダイバージェンス関数と幾何的ダイバージェンスの関係の解明、標準性をもったダイバージェンス関数の微分方程式系を用いた構成などについても成果を得た。ダイバージェンス関数は統計多様体の幾何と統計学・情報理論を結びつける情報幾何の重要な対象の一つであり、ダイバージェンス関数に関して得られた以上の成果は、応用面から見ても重要な意義をもつものと考えられる。 2.等積中心アフィン平面閉曲線の運動で、曲率の変化がKdV方程式に従うものは等積中心アフィン平面閉曲線の空間M上の多重ハミルトン系として表されることが知られている。一方、Mには円周の向きを保つ微分同相群Gが単純推移的に作用する。そこで、空間M上の多重ハミルトン系がG上でどのように表現され、Gの微分同相群としての性質とどのように関係しているかを調べた。その結果、M上の多重ハミルトン系を構成する(前)シンプレクティック形式の系列の最初の二つが張るベクトル空間は、位相幾何で知られているG上の二つの左不変閉2次微分形式が張る空間に対応することがわかった。KdV方程式が円周の微分同相群やその中心拡大であるVirasoro群と密接に関係していることはすでによく知られていることであるが、今回の成果はより幾何的な観点から両者の関係を調べる方法を与える可能性があるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、「研究実績の概要」で述べたように、(1) 統計多様体のダイバージェンス関数の性質と構成、(2)等積中心アフィン平面閉曲線の空間上のKdV流と円周の微分同相群の関係の二つについて研究を進め、それぞれにある程度の進展を得られた。(1)は本研究の計画段階で設定した具体的な研究課題としてはあげていなかったが、本研究が対象としているアフィン接続が与えられた多様体の一種である統計多様体の重要課題の一つに関するものとして、上に述べた成果は本研究課題を十分進捗させるものと言えると考える。 (2)は本研究の主要課題の一つである「アフィン空間内の曲線の運動に現れる可積分系方程式」に関するものであるが、この方向でも当初想定していなかった方向への広がりが見られつつあり、今後重点的に進める意義が大いに認められる題材が得られたという点においても、研究は順調に進んでいると言える。 また、「概要」では述べる余裕がなかったが、年度の途中から最適輸送計画を用いて定義される確率分布族上のワッサーシュタイン距離と情報幾何の関係の研究を始めており、特にq-指数型分布族上の最適輸送計画について具体的な考察を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
「現在の進捗状況」で述べたように、本研究はおおむね順調に進展しており、当初の計画段階で設定した研究課題はより広い包括的なものに発展してきているが、一方で平成31年度が本研究の最終年度であることを念頭に置き、これまで得られた研究成果や知見を深め充実させる方向で進める予定である。特に、可積分系が付随する運動はこれまでの研究で最も発展させることができた題材であるだけでなく、先に述べたように新たな課題も見つかっており、これからも一層深く掘り下げていく予定である。また、統計多様体のダイバージェンス関数の研究も、研究課題としてあげていたいくつかの項目と深く関わるだけでなく、本研究の応用的成果も期待できる項目であり、十分なウェイトをかけて取り組んでいきたいと考えている。 以上の計画を遂行するため、研究経費は主としてテーマに関連する諸分野の学会・研究集会への参加、近しい分野の専門家との情報交換ないし研究打ち合わせ、関連図書の購入、情報収集・交換や成果の可視化に必要な情報機器の購入などに使用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)研究の効率向上のため、新しい情報機器の導入もしくはソフトウェアの更新を計画していたが、研究打ち合わせと成果発表のための旅費が予定より多く必要になり、物品費使用を控えたため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)平成30年度に予定していた新しい情報機器の導入とソフトウェアの更新を平成31年度に繰り越して行い、残額は情報収集・交換、研究打ち合わせや成果発表を行うための旅費として使用する計画である。
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