2022年度は、アフィン空間・ユークリッド空間の超曲面を抽象化した概念であるアフィン分布・ユークリッド分布を考え、その基礎理論を整備したほか、3次元球面のユークリッド分布で、誘導計量は球面の標準計量と等長であるが、誘導接続の曲率が0となるものを構成した。これはユークリッド空間の超曲面としては存在しないものであり、超曲面と分布のずれを具体化した例の一つとして、ユークリッド分布やアフィン分布の幾何の研究を進めていくための手がかりとなるものである。 研究期間全体を通じては、アフィン接続が与えられた空間の幾何についてさまざまな視点から研究を行い、特に等積中心アフィン空間曲線のなす空間を用いた円周の微分同相群の研究、(等積)中心アフィン平面曲線などのなす空間上の流れを用いた可積分系の幾何学的研究、統計多様体(両立するアフィン接続とリーマン計量が与えられた多様体)上の対応するコントラスト関数の標準的構成法やガウスの補題型定理の成立条件の研究、有限集合上の確率分布の空間における最適輸送問題の解空間上に構成される双対平坦構造の微分幾何的・情報幾何的性質の解明などにおいて、それぞれ成果をあげることができた。アフィン接続は幾何において重要な概念であり、それが明確に定義されてからでも約100年の時が過ぎている。しかしながら、アフィン接続が何らかの意味で平坦である場合、あるいはリーマン計量のレビ・チビタ接続である場合を除けば、相当に基本的と思われる事項でも明らかにされていないものは多い。今回アフィン接続が現れるさまざまな対象や状況をとりあげて調べることにより、複数の観点からアフィン接続の幾何にアプローチしたが、こうして得られた成果を今後精査していくことにより、アフィン接続の幾何の研究を推進する大きな足がかりが得られるものと考えている。
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