本研究の目的は離散曲線の変形理論の構築とその応用である。とくに変形の整合性を保証するために離散可積分系理論を基盤におき、差分幾何(離散微分幾何)の立場から離散曲線の離散的変形を考察する。変形の離散化にあたってはすべての場合に通用するような汎用的な離散化手法はなくそれぞれの場合に応じて個別の工夫が必要となる。本年度は渦糸の運動に焦点を当て、渦糸方程式の離散化に取り組んだ。渦糸方程式は渦糸の運動の最小限のエッセンスを抽出した方程式であり、橋本変換を介して非線形シュレディンガー方程式と等価であることが知られている。渦糸方程式の半離散化(渦糸は離散化するが運動は離散化しない)については可積分系理論の視点に立った複数の先行研究があり基本的な結果が知られているが、離散化(渦糸も運動も離散化する)については研究事例自体がほとんどなく基本的な性質が満足にわかっていない状態であった。研究代表者は、廣瀬三平・井ノ口順一・梶原健司・太田泰広の各氏と共同で次のような成果を得た。 (1) 離散渦糸方程式:離散非線形シュレディンガー方程式によって可積分性が保障されるような空間離散曲線の離散的運動を2種類定式化し相互の関係を調べた。 (2) 明示公式:それら2つの離散渦糸方程式に対して行列式およびパフィアンをもちいて無限個の厳密解を構成した。現在はこれらの成果を整理して論文を執筆中である。また「昨年度来の研究成果(平面離散曲線の等角変形と離散バーガース階層)」および「曲線と曲面の差分幾何についての概説」をそれぞれ論文として出版した。
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