研究課題/領域番号 |
15K04864
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
塩濱 勝博 福岡工業大学, 付置研究所, 研究員 (20016059)
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研究分担者 |
永野 哲也 長崎県立大学, 情報システム学部, 教授 (00259699)
糸川 銚 福岡工業大学, 情報工学部, 教授 (90223205)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フィンスラー幾何学 / 測地線 / 非対称距離関数 / 凸関数と凸集合 / 切断跡 / 共役跡 / ランダース計量 |
研究実績の概要 |
幾何学のみならず,解析学、応用数学等数学の広範な分野に於ける基本的概念である凸性は極めて重要な研究課題の一つである。本研究では前年度に引き続き距離関数の非対称性によって引き起こされる様々な現象を捉え,リーマン幾何学とフィンスラー幾何学の相違を明らかにすべく研究を重ねてきた。 前年度得た凸関数を許容するフィンスラー多様体の位相に関する研究では全ての位相的特徴を解明する事が出来なかった。その原因は距離関数の非対称性から生じる直径関数の単調性が証明出来なかった事に起因する。 リーマン多様体の切断跡と共役跡に関するBerger-Omoriの定理は曲率条件(Berger)及び計量の実解析的条件(Omori)の元に得られた。研究分担者達との共同研究によってフィンスラー多様体上の切断跡の最小点に於ける新たな性質を見つけ,Berger-Omoriの定理のフィンスラー版を証明し, Blaschke Finsler多様体の研究に用いた。この成果を距離関数の臨界点に於ける指数定理への応用に発展させた。 Rauch予想は「コンパクト単連結リーマン多様体上の任意の点での切断跡と共役跡はその点での接空間内で一点を共有する」と主張した。この予想は既にA.Weinsteinによって否定的に解決した。切断跡と共役跡に関するKlingenbergの基本定理はフィンスラー計量では成り立たない事を発見し,更に,非コンパクト完備フィンスラー多様体上ではRauch予想が成立しない現象を捉えた。これらの諸結果は第51回フィンスラー幾何学シンポジウムで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度BangaloreのAravinda・Tata Institute教授達と情報交換を行った結果,単位接ベクトル上の測地流の共役性の問題がフィンスラー曲面上でも考えられる事に気付いた。我々が証明しているClairautの定理のフィンスラー版は測地流の共役性に深く関連している。 凸関数と等長変換の関連を調べて,リーマン多様体上で分解定理が様々な条件下で成り立つと我々は予想した。これらのアイデアをフィンスラー多様体に持ち込んで,フィンスラー多様体上の等長変換群についての新しい展開が拓けると考えられる。「アダマール多様体上の等長変換群のコンパクト部分群が共通の固定点を持つ」というCartanの古典的結果は狭義凸関数を許容する完備リーマン多様体に拡張され,更にShiohama-Tiwariによって完備フィンスラー多様体にも拡張された。凸関数及び凸性によって定義される様々な関数,例えばlinear function, peakless function, quasi-convex function等を許容する完備リーマン多様体はその上の等長変換との関連に於て分解定理に発展すると予想される。これらの問題のフィンスラー版はフィンスラー計量の複雑さを勘案すると極めて興味深いものが有る。 インドの幾何学者達との交流が進み,Tata Institute(Mumbai)のDani教授及びStrasbourgのPapadopoulos教授との情報交換から[Geometry and History]という題目の研究図書の出版計画に参加する事になった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きフィンスラー曲面の単位接束上の測地流の共役性について研究を進め,その延長上にあると考えられる等長変換群と凸関数の挙動の関係を調べ,研究分担者達とのグループ討論によって様々な分解定理を証明したい。すなわち,凸性によって定義される様々な関数を許容する完備フィンスラー多様体に特別な条件(Randers計量,Berwald計量等)を与え,測地流の変化を調べたい。 局所非定数凸関数を許容するフィンスラー多様体の位相に関してはほぼ満足すべき結果が得られている。即ち,このような凸関数の等位集合は全てが同時にコンパクトであるか,又は同時に非コンパクトである事を直径関数を用いずに証明出来る感触を得ている。しかしながら、微分構造に関してはリーマン計量を使う「たたみ込み」によって連続関数を滑らかな関数に近似出来るが、フィンスラー計量に関しては滑らかな近似が可能かどうかが申請者には不明である。これも一つの大きな問題であると考えている。凸関数を許容するフィンスラー多様体の微分構造も解明する手段を開発したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在迄の研究の進捗状況に鑑み,来年度には凸性と等長変換の関連等多くの研究課題があり、今まで通り引き続き分担者と共同研究等を継続して進めたい。
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次年度使用額の使用計画 |
出来れば一月程度にの期間でBangaloreに赴き、Aravinda, Gururaja達との研究交流を続けたい。各地で開催される幾何学研究集会に参加して情報交換を行う。フィンスラー幾何学シンポジウムの開催に協力して,若手研究者の参加を援助したい。
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