研究課題/領域番号 |
15K04887
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
本多 尚文 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00238817)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多重超局所解析 / 超局所解析 / 代数解析 |
研究実績の概要 |
多重超局所解析とは、幾つもの部分多様体に沿って同時に超局所化を可能とする理論で、本研究代表者とその共同研究者によって導入された。例えば、ホイットニー正則関数層に正規交差する部分多様体に沿った多重特殊化を行うと強漸近展開層が得られる等、解析の分野で現われる様々な対象が多重超局所化関手によって構成出来る。 本研究課題は、多重超局所化で得られた対象に作用するような多重超局所化作用素を構成し、解析におけるいくつかの問題に応用することが目標である。その為には、多重超局所化作用素の構成に必要となるような多重超局所化の適応範囲を更に拡張し、構成に必要となるような諸性質を確立する必要がある。 例えば、多重超局所解析に現われる幾何は、多重錐と呼ばれる幾何的対象が基本的である。この多重錐はある種の単項式なす代数によって記述されるため、一見複雑な形をなしているように見える。しかし、本研究の今迄の成果によって、実は、幾何的には単純であり扱い易いものであることが判ってきた。更に特徴的なことは、この多重錐は階層的な構造を持っており、ある種の射影写像に対しては、その射影像がまた多重錐をなすことも判った。この性質は、多重超局所作用素の構成において重要なものである。 このような幾何的な性質の他に、解析的な性質、例えば消滅定理と呼ばれる多重錐上でのコホモロージー群の消滅を示すこともまた多重超局所作用素の構成には必要である。当該年度においては、この問題を中心に研究した。すでに述べたように、多重錐の定義は複雑であるため、例えば、それがシュタイン領域をなすかも自明ではない。更に、ホイットニー正則関数に対して消滅定理を得るためには、シュタイン性でも不十分であり、より強い解析的多面体であることが要請される。これらの性質を示すことは決して容易ではなかったが、幾つかのアイデアにより最終的に示すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で述べているように、本研究課題を達成するためには、多重超局所解析のフレームワークを拡張し、そこに現われる幾何的な基本的対象である多重錐の、幾何的な性質(例えば、コホモロジー的に単純である、ある種の射影に対して安定である等)、また、解析的な性質(例えば、多重錐がシュタイン性を持つこと、より強く、その十分な部分族として解析的多面体を含むことを示し、関連するコホモロジー群の消滅を示すこと)が必要である。 このうち、幾何的な性質については、目標としている性質をほぼ示すことが出来て満足出来る状態である。従って当該年度は、解析的な性質、特に必要となる種々の消滅定理を示すことに重点をおいて研究を進めた。当該年度の結果としては、多重錐がシュタイン性を持ち、更に部分族として解析的多面体が取れるという最も基本となる性質は確立することが出来た。 しかしながら、消滅定理としてはこのような岡型の消滅定理の他に、所謂、楔の刃型の消滅定理が必要となる。予定としては、この楔の刃型の消滅定理も当該年度に示す予定であったが、残念ながらシュタイン性等を確立することに様々な困難があり、それをのりこえるアイデアや道具を構築するのに予想以上に時間がかかった。そのため、楔の刃型の消滅定理を示すことまで手を付けることは出来ず、楔の刃型の消滅定理を示す事は次年度の目標とすることになった。これが、現在までの進捗状況をやや遅れているとした主な理由である。 もちろん、これらの消滅定理を確立することは、当該研究課題の目標を達成するための重要なステップであるとともに、多変数複素関数論の問題としても重要であるので、消滅定理を示すことに十分な時間をとることは意義のあることである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の目標としては、まず、当該年度から繰越しとなっている、楔の刃型の消滅定理を確立する。この消滅定理は、当該年度で示した多重錐上で大域コホモロジーが消滅するという事実を上手く用いることで比較的容易に示すことが出来ると考えられるので、これに多くの時間をとられることはないと思われる。 次に、多重超局所作用素の核関数を与えるコホモロジー群とその表象間に表象写像を構成することによって多重超局所作用素の表象理論を構成する。これ自体は、既存の表象理論と同様の論議で構成できると考えられる。ここで、特に重要な解決すべき問題は、コホモロジーの合成から誘導される作用素の積と表象が持つライプニッツルールから誘導される積が表象写像を通して同値であることを示すことである。これを示すには幾つかの解決しなければいけない困難があり、この方面の専門家との積極的な研究打合せ等を行うことで解決への目処をつけたいと考えている。 時間があれば、多重表象理論の応用として、複素領域における分岐コーシー問題や、角錐に沿った特異性の伝搬を逆問題に応用すること等を考えるが、次年度が本研究課題の最終年度であることを鑑み、まずは、多重超局所作用素の表象理論の基礎を構成することを次年度の主な目標とすることにする。なお、国際研究集会等で得られた結果を積極的に発表するようにし、関連する研究の発展、促進に寄与するようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた、海外での研究打ち合わせ、および、国内での研究打ち合わせ、それぞれ1件計2件が研究代表者の都合により中止となり次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に、当該年度で予定していた、海外での研究打ち合わせ、および、国内での研究打ち合わせ、それぞれ1件計2件を行うことで、次年度使用額を使用する。
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