研究課題/領域番号 |
15K04890
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
中里 博 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (10188922)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 数域 / 線形作用素 / 凸集合 / 特異点 / 量子計算の誤り訂正 / 核磁気共鳴装置 / 代数曲線 / 境界 |
研究実績の概要 |
「行列および線形作用素の数域の曲線論的研究とその応用」は、行列や線形作用素の数域となっている複素数平面の有界凸集合の境界曲線を代数曲線論などの曲線論や凸解析的方法を用いて解明し、数域やその一般化である高次元数域やq-数域の応用として期待されている量子計算の誤り訂正や核磁気共鳴装置の制御の向上に理論の面から寄与することを目的としている。平成28年度は、高次元数域と深く関係する数域の境界曲線の双対曲線の特異点として実特異点が、ある行列の数域に関しては登場しないことが分かったことや、これまでの方法に加え、曲線をリーマン面上の正則微分形式の周期を使って特徴づけることなど複素解析的な方法の有効性がわかった。研究集会での情報交換で量子計算の理論と数域との関連をより知ることができた。研究成果は、平成28年度中の5編の審査制の学術論文として雑誌に発表したほか、1編の関連する分野の研究発展の歴史を国際学会の雑誌に発表した。2016年6月開催の台湾(台北市)の国際研究集会で成果を発表したほか11月の京都の国内研究集会でも成果を発表した。本課題の研究遂行を通じて量子エンタングルメントなど量子の振舞の解明について、行列の数域や一般化数域の研究が不確定性と不等式の関係などさまざまに結びついている様子が少しづつ見えてきている。行列の数域を扱うことの本質は、2つのエルミット行列の関係を扱うことであり、非可換の積分などにも数域の理論は結びついており、2つのエルミット行列の関係性の一端が明らかになった。研究課題の遂行に当たっては本課題に関係する領域で代表者は約20年にわたり台湾の東呉大学の簡茂丁教授と共同研究を行っており、同氏は昨年の台北での国際研究集会を主催している。同氏は平成29年3月に弘前大学に来訪し代表者と1週間共同研究を行いさらなる進展を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の申請前の代表者の研究論文の発表状況は、2009年:5編, 2010年:7編、2011年:7編、2012年:4編, 2013年: 6編 等々であり、研究課題の計画で発表論文の頻度等について数値目標を設置してはいないが、平成27年度:6編発表、平成28年度:5編発表と、研究課題についての研究の進展速度を反映する形で、発表の頻度を維持している。内容的にも、大手出版社のElsevier 社の Linear Algebra and Its Applications などに発表していて、新たに別の大手出版社のSpringer社の Czechoslovak Math. J. に論文を発表するなど、成果の水準が保証されていると考える。代表者と20年来の共同研究を行っている台湾の簡茂丁教授は、平成29年3月に7度目の弘前大学への来訪を行っており共同研究を進めるととも共同研究が順調に進んでいるとの認識でも一致していることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで約20年にわたり、本課題に関係する分野で代表者が共同研究を行ってきた台湾の東呉大学の簡茂丁教授との協力関係を継続し、本課題の遂行に取り組む。平成29年度は、本課題の最終年度にあたり、成果の発表を中心にして成果の積み上げも行っていく。 2017年6月にベトナムのダナンの国際研究集会で成果を発表し、7月には米国のアイオワ州での国際研究集会でも成果発表する。平成28年4月に博士後期課程に入学した黄鵬瑞君を本課題に関連する分野で指導しており、彼もこの2つの研究集会で発表することになっている。これらの旅費調達のため、平成28年度は旅費の抑制を行った。複素解析的方法を使っての研究には、科学研究費補助金で、平成27年度に購入したソフトウエアの"Maple" がたいそう役に立った。数式処理的方法、数値解析的方法など、コンピュータもうまく使って研究を進めたい。研究課題の遂行を通じて複素解析との結びつきや逆問題としての捉え方など新たな視点も見つかっており、本課題の成果を実り多いものにすることを追及するとともに次の課題設定に繋げていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、平成27年度からの繰り越し166,483円と平成28年度分交付額500,000円の合計666,483円の執行を平成28年度中に執行する当初計画であったが、研究発表を行った台北で6月に開催された第13回数域研究国際研究集会で、開催主催者の東呉大学より研究集会参加に往復航空券のほぼ全額に当たる旅費の補助と滞在費の一部の補助があり、外国旅費が大幅に節約できた。さらに、平成28年4月に博士後期課程に入学した学生の指導に当たっていたが、研究課題に関連する分野で学生の研究が進み平成29年度には、代表者とともに、国際研究集会で発表できる可能性が高まったため、これに充てる資金の確保の意味から、物品費を大幅に節約し41万1千円余の残額を繰り越すことを計画した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度6月にベトナムのダナンの研究数回に、7月には、米国アイオワ州の研究集会にそれぞれ1週間、代表者と指導している博士後期の学生2名で参加する予定で、平成29年度に執行を予定している補助金による資金投入の約91万円のうち約80万円をこのための外国旅費にあてる。残り11万円程を弘前大学での講演に招く1名の講師の旅費と講演謝金および研究課題関連図書購入などに当てる予定である。
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