研究課題/領域番号 |
15K04897
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高木 啓行 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20206725)
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研究分担者 |
羽鳥 理 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70156363)
植木 誠一郎 茨城大学, 工学部, 准教授 (70512408)
古清水 大直 (古清水大直) 米子工業高等専門学校, 教養教育科, 助教 (50713939)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 関数解析学 / 合成作用素 / 保存問題 |
研究実績の概要 |
この研究課題は、「関数空間の間の写像が荷重合成作用素で表現できるための条件を知りたい」という動機に基づいている。はじめは、等距離写像(単に距離を保存する写像で、線形性は仮定しない)が荷重合成作用素を用いて表せるかどうかを考える。これまで、古清水大直氏(研究分担者)・三浦毅氏(連携研究者)・高木(研究代表者)・高橋眞映氏(研究協力者、山形大学・名誉教授)の共同研究で、連続関数からなる多くの(上限)ノルム空間において、それらの間の等距離写像が、荷重合成作用素とその複素共役を用いて表せることを証明した。ここで、連続関数の空間を取り上げた理由は、任意のバナッハ空間が連続関数のある空間と同型になるからであるが、この結果を他の関数空間に応用するところまでにはまだ至っていない。そこで、平成27年度は、有界正則関数全体のバナッハ環(以下、これをハーディ環という)に、この定理が応用できるかどうかを考え、次の結果を得た。 定理:リーマン球面の極大な領域が2つあるとき、それぞれの上のハーディ環の間で、等距離写像が、荷重合成作用素またはその複素共役で表現できる。また、その際、2つの領域は等角同型または反等角同型である。 ハーディ環は極大イデアル空間の上では(連続)関数環をなすので、上記の古清水・三浦・高木・高橋の結果をそのまま適用できるが、ここでは、極大イデアル空間の上ではなく、領域の上の関数の合成という形で結果を導いたところに意義がある。実際、ハーディ環上の環同型写像を特徴づけたKakutani-Chevalleyの定理をうまく利用し、結果を導くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「9. 研究実績の概要」欄で述べたように、平成27年度は、ハーディ環の間の等距離写像を、荷重合成作用素かその複素共役として特徴づけた。この結果を保存問題の観点で見ると、ハーディ環の距離構造が、定義域の領域の等角性または反等角性により決定されることがわかる。一方で、ハーディ環の代数構造(和・積・スカラー積の構造)が、領域の等角性のみにより決定されることが知られているから、距離構造と代数構造の違いがはっきりと出た。また、この結果は、単位円板上のハーディ環の間の等長作用素(線形な等距離写像)を特徴づけたNagasawaの定理およびdeLeeuw-Rudin-Wermerの定理の拡張になっている。このように、今回わかったことは、古清水・三浦・高木・高橋の結果が連続関数以外の関数空間に応用できたという以上に、興味深いものになった。さらなる発展も期待でき、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の結果は、等長作用素に関するdeLeew-Rudin-Wermerの定理の拡張になっているが、彼らの論文では、応用として、ハーディ空間 H1 の上の等長作用素も特徴づけている。そこで、今回の等距離写像に関する結果もハーディ空間 H1 への応用ができないかどうかを考える。そして、一般のハーディ空間 Hp など、正則関数からなる多くの関数空間の間の等距離写像を研究するきっかけにしたい。また、古清水大直氏(研究分担者)とは、連続微分可能関数空間上の等距離写像についての研究を続ける予定である。一方、平成27年度の研究では、環同型写像と合成作用素の関連が重要な役割を果たしたので、合成作用素と積保存の関連も調査する。このような考察の先には、多くの関数空間における等距離写像や荷重合成作用素を共通に扱える理論構築の可能性を見据えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の古清水大直氏が研究発表を行うために使用した旅費が、予定額より若干少なく済んだため、端数が残った。次年度の旅費予算に合算して使用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度、請求額と合わせて、旅費として用いる。
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