研究課題/領域番号 |
15K04899
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
角 大輝 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40313324)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ランダム複素力学系 / 有理半群 / フラクタル幾何学 / ランダム力学系 / エルゴード理論 / 複素解析学 / 複素特異関数 / マルコフ過程 |
研究実績の概要 |
リーマン球面上のランダム複素力学系理論と有理半群(リーマン球面上の正則写像の半群)の力学系理論を互いに交錯させながら発展させる研究を行った。2元生成多項式半群で平面上の臨界値集合が有界なものの空間を調べた。その空間のなかで、ジュリア集合が非連結になるパラメータ領域$X$およびその境界で何が起きるのかを詳しく調べ、そこでの無限遠点に収束する確率の関数$T$(悪魔の階段の複素平面上版)の挙動や、$T$の確率パラメータによる偏導関数$C$(高木関数の複素平面上版)を詳しく調べた。さらにパラメータを$X$の境界から入り込ませて、ジュリア集合が連結であるようなパラメータ集合でどのような状況が起きているかも詳しく考察した。結果をまとめてAdv. Math.から出版することができた。 また、J. Jaerisch氏との共同研究で、無限生成拡大的有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元の研究と、その応用として非拡大的有元生成有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元の研究を論文にまとめ、Trans. Amer. Math. Soc. から出版予定となった。 また、J. Jaerisch氏との共同研究において、上記の$T$もしくはその一般化である、「一つの極小集合$L$を固定したときの、$L$に収束する確率の関数とその確率パラメータによる高階偏導関数」の各点ヘルダー指数とそれに付随するマルチフラクタル解析を研究し、それを論文にまとめて雑誌に投稿した。 また、以前の結果で、ランダム複素多項式力学系において、核ジュリア集合が空になる場合を多く扱っていたが、核ジュリア集合が空となるとは分からないような系のクラスにおいても、genericな系でカオス性が著しく弱まるような、ランダム性の誘起する新しい現象(ランダム性誘起現象という)を発見し、証明した。現在、その結果を論文にまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平面上の臨界値集合が有界な2元生成多項式半群の空間の研究については、それをまとめた論文がAdv. Math.に掲載された。さらに、J. Jaerisch氏との共同研究による無限生成拡大的有理半群とその応用の論文がTrans. Amer. Math. Soc.から出版予定となった。この2つの雑誌はいずれも一流雑誌である。 また、J. Jaerisch氏との共同研究による極小集合に収束する確率の関数およびその確率パラメータによる偏導関数の各点ヘルダー指数の研究を論文にまとめ、雑誌に投稿することができた。 さらに、核ジュリア集合が空とは限らないランダム複素多項式力学系についての結果がほぼまとまり、もう少しで論文を投稿できる状態にある。 そして、これらの結果が世界的に認められて、2015年度は海外での国際研究集会で3回の招待講演を行った。特に、トポロジーと力学系関係の大変に歴史・権威ある大規模な研究集会「Spring Topology and Dynamics」(於アメリカ)では、semi-plenaryでの招待講演を行うことができた。また、韓国でのエルゴード理論研究集会では、plenaryでの招待講演を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
有理半群とランダム複素力学系の研究を深めていく。まず、5,6月に大阪大学に滞在するM. Urbanski氏(Univ. of North Texas, USA)と半双曲的有理半群のエルゴード理論的性質、統計的性質を研究する。その際、大阪大学において、有理半群、ランダム複素力学系、反復関数系、エルゴード理論の研究集会を行う。その研究集会には、Rich Stankewitz氏(Ball State Univ., USA)も招待し、有理半群の研究発表を行ってもらう。また、Stankewitz氏とは、ジュリア集合が連結であるような2つの多項式によるランダム複素力学系についての共同研究を行う。この研究集会においては、高知大学の諸澤俊介氏も招待し、多項式半群の研究発表を行っていただく。なお、諸澤俊介氏とは、具体的な1パラメータ多項式半群の研究を共同で行いたいと考えている。そのほか、J. Jaerisch氏と開集合条件を満たす拡大的有理写像ランダム力学系の、一つの極小集合に収束する確率の関数の各点ヘルダー指数を研究したいと考えている。さらに、佐藤譲氏(北大)、矢野孝次氏(京大)とランダム力学系の小研究集会を開催し、ランダム力学系研究者の交流を図る。このようにして、多角的に有理半群とランダム複素力学系の研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、いくつかの研究の共同研究者であるJohannes Jaerisch氏(島根大学)がアメリカ・メンフィスで2015年10月に行われた研究集会「AMS Sectional Meeting Special Session on Fractal Geometry and Dynamical Systems」に出席して研究発表を行うための旅費補助額として計上していた金額があった。しかし、Jaerisch氏が自ら科学研究費の「研究活動スタート支援」を得て、私が氏に対して旅費補助を行う必要がなくなったことがまず一つ目の理由である。さらに、2016年5月に、Mariusz Urbanski氏、Rich Stankewitz氏らを迎えて大阪大学で研究集会を行うこととなり、そのための旅費補助等の費用が必要となったために、2015年度の使用額を抑えることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年5月後半に、Mariusz Urbanski氏(University of North Texas, アメリカ)、Rich Stankewitz氏(Ball State University, アメリカ)、諸澤俊介氏(高知大学)、Johannes Jaerisch氏(島根大学)片方江氏(一関高専)らを迎えて、有理半群、ランダム複素力学系、反復関数系、エルゴード理論に関する研究集会を大阪大学で行う。その際の上記発表者の旅費補助等に使用する。また、6月末から7月初めにアメリカ・フロリダで行われる国際研究集会に参加するための旅費として使用する。
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