研究課題/領域番号 |
15K04899
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
角 大輝 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (40313324)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 複素力学系 / ランダム複素力学系 / 有理半群 / フラクタル / ランダム力学系 / エルゴード理論 / ジュリア集合 / ランダム性誘起現象 |
研究実績の概要 |
リーマン球面上の正則写像のなす半群(以下有理半群)の研究と付随するランダム複素力学系の研究を行った。5月、6月には大阪大学にM. Urbanski氏(University of North Texas,アメリカ)が滞在し、有理半群に付随する歪積のエルゴード理論的側面に関する共同研究を行って多くの結果を得た。同じ時期にR. Stankewitz氏(Ball State University, アメリカ)も大阪大学に招へいし、有理半群および(ランダム)反復関数系に関する共同研究を行い、特に後者の研究において「階層的な非一様完全性」という新しい概念を提唱してその性質を満たすようなランダム反復関数系の極限集合を非常に多くのパラメータについて得ることができた。その結果を論文にまとめて雑誌(Discrete and Continuous Dynamical Systems Ser. S)に投稿し、掲載決定となった。また、その際、有理半群やランダム(複素)力学系に関しての研究集会を大阪大学で行い、国内外の研究者が10名程度研究発表を行い、互いの知見を深め意見交換を積極的に行った。また、4月から、「核ジュリア集合が空とは限らない複素パラメータランダム力学系」の一般論とその応用についての研究を行い、特に「任意の複素多項式についてのその根をランダム緩和ニュートン法を用いて見つける」という理論を発見することができた。これらの結果を論文にまとめて雑誌に投稿した。さらに、J. Jaerisch氏(島根大学)と、ランダム(実、複素)力学系における、ある一つの極小集合に収束するような確率の関数Tの確率パラメータに関する(高階)偏微分の関数に対するマルチフラクタル解析の研究を行い、今までの結果をさらに深化することができた。この結果をまとめたものの論文を現在準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず計画していたM. Urbanski氏との有利半群の歪積のエルゴード理論的研究は氏を大阪大学に5月、6月に招聘したことによってかなりの部分が進んだ。 そして同じく計画していたR. Stankewitz氏との、非自励系反復関数形の極限集合で自励系のものには表れない新しい現象についての研究も、氏を同じく5月に招聘したことによってブレイクスルーがあり、当初予想していたものよりもはるかに興味深い結果を得ることができた。この結果についてはその後もう一人の著者である須川敏幸氏(東北大)のアイデアも入れて深化させることができ、論文がまとまりDiscrete and Continuous Dynamical Systems. Ser. Sに掲載決定となったことは大変に満足できるものであった。 そして、核ジュリア集合が空とならない一般の複素パラメータランダム複素力学系については、ランダム緩和ニュートン法によって任意の複素多項式の根を見つける(従来の方法よりもすぐれた利点がある)ことができるという具体的でかつ画期的な応用を発見できたのはランダム複素力学系の研究を進めていたときには全く予想していなかったものであり、大変に良いことであった。粘り強く応用について考え続けた成果が結実したのであると思う。なおかつ、そのような応用を5月に発見してすぐに以前の書きかけの論文に足して専門雑誌に投稿することができたのも、良いことであったと感じている。 さらにJ.Jaerisch氏(島根大)とのランダム(実、複素)力学系に現れるある一つの極小集合に収束する確率の関数Tとその確率パラメータに関する偏微分(これは実は高木関数の複素平面上版とみなせる)のマルチフラクタル解析の研究では氏と定期的にあったり連絡をとりあって地道に研究を続けたことによって少しずつ興味深い結果が蓄積している。
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今後の研究の推進方策 |
M. Urbanski氏との共同研究については、9月に氏の所属する大学で行われる国際研究集会に参加した際に2016年5月、6月に行なったものの続きを行う。実際に会って議論を深めることによって、研究がより進むと確信している。有理半群の歪積のエルゴード理論的研究についてはまだ解明されていない部分が多くあるが、新展開を迎えることができると考えている。 J. Jaerisch氏とのランダム(実、複素)力学系に現れるある一つの極小集合に収束する確率の関数Tとその確率パラメータに関する(高階)偏微分のマルチフラクタル解析の研究共同研究については、ランダム力学系研究集会(4月、京大)と数理解析研究所でのランダム力学系研究集会に氏を招へいしており、その際に議論を重ねていく。この研究については、以前の研究で仮定していた「極限集合またはジュリア集合の各生成元による引き戻しが互いに交わらない」(これを分離条件という)をゆるめて、ある開集合が存在してその各生成元による引き戻しがその開集合にふくまれて互いに交わらない」(これを開集合条件という)にする、という目標がある。現在のところ、この方向については道半ばの感があるが、既存のフラクタルの研究で開集合条件のみで議論しているものは多数あるので、それらを参考にしながら、我々独自のアイデアを盛り込んで発展させていく予定である。 また、私が単独で行っているランダム複素力学系の研究については、高次元のランダム多項式写像力学系で安定性などについていくつか結果を得ているので、それを深化させ、論文にまとめて専門雑誌に投稿する。高次元の複素射影空間上の正則写像の半群についても自由性などについて多くの結果を得ているが、それについても結果をさらに深化させて論文にまとめ、専門雑誌に発表する。 さらに、2回行うランダム力学系研究集会で発表を行い、他の研究者と議論を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度に使用する額として申請した分をほぼ使い切ったが端数分が余った。
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次年度使用額の使用計画 |
自分の出張旅費または図書購入にあてる。
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備考 |
2017年4月1日付で京都大学大学院人間・環境学研究科に異動したため、研究成果のウェブページは京都大学大学院人間・環境学研究科のホームページにある。
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