研究課題/領域番号 |
15K04901
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野村 隆昭 九州大学, 数理学研究院, 教授 (30135511)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 等質錐 / 等質錐の行列実現 / 基本相対不変式 / 向き付けグラフ |
研究実績の概要 |
(1) 等質錐の基礎理論の整備 等質錐の基礎理論については,Vinbergによる1963年の論文で確立されてはいるのであるが,実はその論文において論証にギャップが認められる箇所がある.そのギャップを,Koszulは幾何学的な手法で,Rossi-Vergneは解析的な手法で埋めてきたのであるが,本研究では私自身の研究成果や研究協力者による研究成果を踏まえて,元々のVinbergの論文にあった精神に基づき,関係する非結合的代数の帰納構造とともに直接的な証明を与えることに成功した.この研究成果は,大道具を用いずに等質錐の理論の基礎部分を補強するものであり,等質錐の理論へのアプローチを非専門家に対して容易にするものとして,統計学等への等質錐の応用にも道を開くと期待される. (2) 等質錐の最小行列実現の研究 山崎貴史との共同研究で得られ,Kyushu J. Math., 69 (2015), 11--48 として出版された研究成果を引き継ぐもので,その論文において構成された源凸錐を stapling をしないで直和形式に並べ,基底の置換による行列成分の並び替えで等質錐を行列実現したものが,行列のサイズが最小のものであることを示した.これは昨年度から継続する研究で,成果をまとめるにあたっては,証明やそこで用いられる概念の整理等,まだいくつかの部分において洗練化する余地があるので,その部分について平成29年度も引き続いて研究を行う. (3) 「複素関数論講義」と題する図書を出版した.学部学生向きの教科書ではあるが,一部に本研究の過程で得た知見を盛り込んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は順調に進展し,現在では計画以上の成果を得ていると自己評価できる.平成28年度の研究は修士課程の学生と共同で行い,大部分が2017年2月発表の修士論文にまとめられている.とくに,研究実績の概要の(1)で述べた等質錐の基礎理論の整備については,共著の学術論文として発表する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進んでいるので,研究計画そのものに大幅な変更は必要ない.とくに,等質錐の研究において向き付けグラフを援用し議論を透明化する本研究の手法をさらに精緻化して,等質錐やそれに付随する代数的構造をより深く追及することを考えている.上記研究実績の概要の(2)で述べた等質錐の最小行列実現の研究については,力づくで計算した箇所があり.その部分をより数学的に洗練されたものにした上で,学術論文として発表できることを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の内7割弱は,3月29日から4月5日まで年度をまたいでシンガポールに出張した経費の平成29年度分に充当される.年度をまたぐ出張となったのは,シンガポール大学の訪問先教授とのスケジュールの調整上やむを得なかったものであり,最初から平成28年度の経費として使用する予定だったものである.また3月に予定していた国内出張が先方の都合でキャンセルとなったことも関係している.一方で,平成29年度の外国出張が上記シンガポール以外に3件となったこともあり,平成29年度使用額として計上してあった外国旅費予算を補うこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
すでに上で述べたように,7割弱は年度をまたいで外国出張分した分に充当する.また,平成29年度はすでにオランダとフランスで開かれる二つのワークショップ・研究集会から招待を受けており,これらに加え,もう一つ別の国際研究集会(チュニジアで開催)の組織委員でもあるので,平成29年度の外国旅費予算を補うこととする.格安航空券を利用して節約する予定である.
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