研究課題/領域番号 |
15K04907
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
中屋敷 厚 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (10237456)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 特異有理曲線 / 通常n重点 / KP階層 / 佐藤グラスマン / (n,s)曲線 / Giambelli公式 / シューア関数 / タウ関数 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き特異有理曲線から構成されるKP階層の解について研究した。2015年度は通常3重点と呼ばれる特異点を持つ代数曲線から佐藤グラスマンを経由してKP階層の解を明示的に構成した。2016年度はその構成を整理拡張して、4以上の任意の自然数nに対して、通常n重点と呼ばれる特異点のみを持つあるクラスの代数曲線から佐藤グラスマンを経由してKP階層の解をロンスキアンを用いて明示的に求めた。また、これらの解を含むような時間発展で閉じた解のクラスを佐藤グラスマンの部分集合として構成し、それらは皆ロンスキアンにより表示できることを証明した。ここで考察した特異代数曲線は、(n,s)曲線と呼ばれる非特異代数曲線の極限として得られる曲線である。(n,s)曲線に対してはKP階層の解は多変数シグマ関数を用いて構成されている。しかも解の構成要素はシグマ関数を始めとしてすべて特異代数曲線への極限が存在するような量で記述されている。従って今回の研究により、(n,s)曲線の場合はテータ関数解の指数関数解への退化が完全に明示的に決定されたことになる。
2016年度に行った他の研究として、KP階層の解をその展開係数の形で特徴付けるというものがある。Giambelli公式と呼ばれるシューア関数に関する公式の拡張をみつけ、関数のシューア関数による展開係数がこの公式を満足することがその関数がKP階層の解になるための必要十分条件であることを証明した。関数が原点で零にならないときは以前から知られていた結果である。この結果を用いてGiambelli公式の歪シューア関数に対する拡張が得られた。また本結果は佐藤グラスマンを用いた自然な解釈が可能であることがかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
特異代数曲線に対応する解の研究については、2015年度の研究が整理され拡張された。その意味では研究は比較的順調に進んでいる。しかし、ここで構成されたKP階層の解はソリトン解ではなく、その親戚のようなものである。当初予想していなかった新しい発見であり意義があると考えているが、一方で当初の計画である、佐藤のソリトン解に退化すテータ関数解を構成する問題については足踏み状態である。従って当初の研究計画に即してみた場合研究はやや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
佐藤のソリトン解に退化するテータ関数解をすべて具体的に構成するという当初の目標については今のところ確固とした目途がたっていない。研究期間の最終年ということもあるので、当初の計画を次のように変更する。
(n,s)曲線でn,sの条件を緩めて得られる非特異代数曲線について、佐藤グラスマンを用いてそのテータ関数解の退化を研究する。一般的考察からこの退化した解は2016年度に定義、構成した解のクラスに入るはずであるが、解を記述するパラメータの値を代数曲線のデータを用いて具体的に書き下す。そして、2016年度に構成した一般的な解のクラスとクラスター代数との関係を調べそれをもとに退化解とクラスター代数の関係を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
韓国高等研究所(KIAS)で開催された研究会で、滞在費全額が主催者側から支払われたこと、名古屋で開催された研究会に招聘する計画をたてていた研究者を講演枠の不足により招聘できなくなったこと、定期的に招聘しようと考えていた研究者が海外の大学のポスドクに採用され招聘できなかったことなどが主な原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
イタリアのGallipoliで6月に開催される研究会出席、神戸大学の山田泰彦教授との議論のための神戸大学訪問数回、ロシアのソボレフ数学研究所のA. Mironov教授招聘、モスクワ大学のA. Zheglov教授招聘、イタリアのボローニャ大学のS.Abenda教授招聘、ワークショップ開催などを考えている。
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