研究実績の概要 |
今年度の研究においては,閉区間[0,1]上で定義された複素数値連続微分可能な関数全体C^1([0,1])に対して種々のノルムを考察し,それらに関する全射等距離写像の構造を解明した.また,複素関数論との関連性から自然に発生する複素微分に関するC^1空間の類似物を導入し,あるノルムに関する全射等距離写像を決定した.これらは本質的に荷重合成作用素として表現されることが示された.まずC^1([0,1])上の全射等距離写像の構造定理に関しては,これまでは複素線形性を仮定した上で全射等距離写像が特徴づけられ,その証明はノルムごとに異なる手法が用いられていた.本研究では複素線形性を仮定せず,単に全射等距離写像を考えその構造を解明するとともに,ある種のノルムの族に対して統一的手法による全射等距離写像の特徴づけを与えることに成功した.またC^1空間の複素微分バージョンとして,単位開円板上の正則関数で,その導関数が単位閉円板まで連続的に拡張可能であるものを考察した.C^1空間と同様に,この空間にも種々のノルムが定まるが,それらのうちの一つに対して全射等距離写像を,複素線形性を仮定せずに,完全に決定した.これらの研究は,複素線形とは限らない全射等距離写像の構造を解明した,という意味でより広いクラスの等距離写像が決定されたことになる.また複素関数論との関連で,これまでに考察されてこなかった新しい空間を導入し,さらにその上の等距離写像が決定されたことも重要である.実際,この問題は1985年にNovinger and Oberlinが示した結果の類似物であり,彼らの定理では除外された場合の簡単なケースと見ることができる.
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