研究課題/領域番号 |
15K04922
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
稲浜 譲 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (80431998)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ラフパス理論 / 確率微分方程式 / マリアバン解析 / 漸近展開 / 確率偏微分方程式 |
研究実績の概要 |
本年度はラフパス理論の研究を主に行った。主にマリアバン解析とラフパスとの融合をすすめた。 その結果ラフパス理論を用いて、マリアバン解析が得意にしていた熱核の短時間漸近展開を深める結果を証明できた。もっと具体的に述べよう。従来のマリアバン解析におけるとても重要の結果の一つに、高信と渡辺による準楕円条件(ヘルマンダー条件)の下での熱核の非対角短時間漸近展開を示すというものがある。これは考える二点間を結ぶエネルギー最短線が一つではなく、無限個存在してコンパクト多様体をなす、という非常に複雑な場合を扱ったもので、概念的にも計算技術的にも、(ラフパス理論誕生以前の)確率論における最高峰であるといっても過言ではないと思う。筆者は九州大学の谷口説男氏と昨年度に書いた共著において、この高信と渡辺による結果をラフパス理論を使った別証明を与えた上で、さらに拡張し、基礎の空間がユークリッド空間の場合だけでなく、多様体のような「曲がった」空間の場合にもこの種の結果が成立することを示した。この結果はおそらく微分幾何学の観点からも新しいものであると思っている。またラフパスそのものとは別に、ラフパス理論の変種である正則性構造の理論や被制御超関数の理論の勉強をすすめた。これらはラフパス理論の考え方を、かなり特異性が強いために通常の手法では解けない確率偏微分方程式に適用するものであり、研究対象になっている具体例が物理的にも重要であるとされていることから、現在注目を集めている。筆者はこの勉強をもとに、新年度にはこのトピックで論文を一つ書けるように共同研究者とともに目下努力中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に研究が進んでおり特に問題はないと思う。今のところ予想外のトラブルも起きていない。実は昨年度分の研究は難しい話題だったために、始める前は自信がなかったのだが、運があったのか無事に証明できたために、現時点では幸せな気分で研究ができている。
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今後の研究の推進方策 |
研究題目の中に掲げた二つのキーワードのうち、ラフパス理論に関しては、まとまりのある結果をなんとか証明できたために、とりあえずの義務は果たせたという気がしている。よって今後はもう一つのキーワードである特異性の強い確率偏微分方程式の研究をすすめて、なんとか論文一本を書くのが当面の目標である。筆者はこのトピックについては新参者である上に、非常に難しいとされるトピックなために、論文を一本書けるかどうかすらそれほどは簡単ではない。なんとかいままでの勉強を生かして、成果を出したいものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
5千円以下なので、とくにはっきりした理由があるわけではなく、自然に残ってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費の足しにするつもりである。
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