研究課題/領域番号 |
15K04923
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
佐久間 紀佳 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (70610187)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メキシコ / ポーランド / フランス / 自由確率論 / 無限分解可能分布 / レヴィ過程 |
研究実績の概要 |
平成29年度は平成28年度から研究を継続している自由自己分解可能性の研究について、まとめその発表を広く行った。また、それに関する討論をしている中で新しい問題を見つけた。 具体的には、平成29年7月ごろくらいまではより狭いクラスであるGeneralized Gamma Convolutionsと呼ばれる分布について古典的な結果を調べ, さらにそれの反射までを含めたThorinクラスの類似を考えてみた。定義の仕方にもよるのであろうが、この問題では古典確率論の類似が相当難しいことが分かった。 フランスとポーランドに9月、10月滞在し、Analysis in Quantum Information Theoryに参加し, 自由畳込みや作用素値自由確率論を量子情報科学へ応用するため広く情報を集めた。また自由畳込みの時間発展における性質の変化について講演した。またそこで作用素値自由確率論を応用することを考えている東京大学の早瀬氏に会い、その応用についていくつか情報を得た。また、ポーランドのブロツワフ大学で共同研究者であるW. Mlowtkowski氏といくつかの例を計算している中で、自由擬無限分解可能分布と呼ばれる、自由レヴィヒンチン表現にあらわれるレヴィ測度の部分が符号付き測度になるケースを見つけた。今後それらについてまとめていく予定である。 11月にはメキシコのCIMATにおいてSIMAというランダム行列と自由確率論に関するトップレベルの専門家、若手が集まるワークショップで講演、情報収集をした。主に上記で挙げた内容について解説し、興味を持たれたと思う。またBi-free性というある意味2次元の自由確率論を考えたときも自己分解可能性はかなり類似が成立するであろうことも分かった。 1月以降は自由自己分解可能分布の作用素値版について着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は昨年度の報告で述べたように予想外のことでガウス分布の自由自己分解可能分布性が示せたことの影響を強く受けている。そのため、作用素値自由確率論を研究する中で得た関数論の技術を使ってスカラーの場合の結果がより深くなるように務めている。その部分は予想通り、いくつか面白い(=欲しかった古典確率と異なる)結果が出始めている。このような例の場合の性質を一般の場合に拡張できるかで申請者の今までの研究成果の発展具合は決まってきている。そういう意味で研究の発展に必要な種は得られた。その意味でおおむね順調に進展していると思う。 レヴィ測度の部分の考察から、作用素値版の自由自己分解可能分布の極限定理による特徴づけや擬無限分解可能分布の例が構成できるのではないかと考えている。特に前者はある程度の条件を絞れば小さな結果は示せそうである。他方、後者はまだ具体例自体が少なく、ランダム行列モデルなどの方法を経由しないと難しいと思われる。前年度着手したポーランドのW. Mlowtkowski氏との研究の中で自由自己分解可能分布になる場合とならない場合の両方が現れ、特に自由自己分解可能分布にならない場合は新しい特徴が見られることに気がついた。この点は古典確率論との対比を続ければ更に新しい性質が具体例から見ることが可能であろうと予測される。その意味でも順調に進んでいると結論付ける。
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今後の研究の推進方策 |
自由確率論、作用素値自由確率論の基礎理論の観点では、両方のケースについて、自由擬無限分解可能分布のクラスを調べていく必要があると思う。この手の研究については一般論は存在せず、古典確率論の場合ですら、まだ、いくつか具体例が発見されている程度で、系統的な情報が少なかった。しかし、偶然にも我々が自由確率論における類似に気がついたころ、すなわち、平成29年度に古典確率論の場合でかなり自由擬無限分解可能分布を細かく調べた論文が発表された。この論文は自由確率論の無限分解可能を研究する中でもかなり参考になる部分がたくさんある。それを丁寧に確認・自由確率論との場合を対比しつつ、多少なりとも一般論を展開しておきたい。また、作用素値の場合に広げられるよう研究を進めていきたい。またこの自由擬無限分解可能分布を得る、ランダム行列モデルは構成できるか?という問題はとても大切である。これはそう簡単に解決できないが、いつ自由擬無限分解可能分布が存在するか?そもそもいつ古典擬無限分解可能分布が存在するか?という問題に係るからである。これらの問題を意識しつつ本研究課題をまとめていこうと思っている。これらの解決にはより深い関数論のテクニックが必要になると思われる。その手の研究が得意な研究者と常にコミュニケーションを取ることが今後の研究推進でキーになるはずである。 応用面に関しては、東京大学の早瀬氏や量子情報界隈の研究者から平成29年度パリのIHPに滞在した際、自由確率論、作用素値自由確率論の応用についていろいろ情報を仕入れた。また実際の数値計算例もいろいろ見せてもらった。これらを活かして自分の得た結果や無限分解可能性に関連する結果を応用に結び付けられるよう、研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度予定していたヨーロッパ出張について、他の研究に合わせて出張が可能であったため残額が生じた。本年度共同研究をより早く推進するため、共同研究者招聘に用いる。
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