研究課題/領域番号 |
15K04925
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
谷口 雅彦 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (50108974)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タイヒミュラー空間 / フラクタル集合 / 擬等角写像 |
研究実績の概要 |
フラクタル構造と呼ばれる特定の点配置構造を導入しフラクタル構造の変形空間として新しいタイヒミュラー空間の概念を導入すること、すなわちフラクタル構造のタイヒミュラー空間の定式化が本研究の第一目標であったが、そのための基礎研究として奈良女子大学大学院生夏目阿佑子氏と行った古典的無限次元表現空間上の力学系についての研究、特に漸近的非加重シフト作用素に対する研究の成果が国際的専門誌 Tokyo Journal of Mathematics から公刊された。 また、「タイヒミュラー空間」の項目を分担執筆した朝倉数学辞典が公刊された。本研究ともきわめて密接に関係する記述も含み、この分野の今後の研究の発展に大きく寄与するものと考える。 次に、上記の目標であるフラクタル構造のタイヒミュラー空間の定式化をとりまとめた速報的論文を昨年度に国際研究集会 Proceedings へ投稿したが、連携研究者の松崎克彦氏をはじめとする関係研究者との議論の過程で、千葉大学の藤川英華氏らと以前に行った共同研究の成果を適用すれば、フラクタル構造のタイヒミュラー空間の幾何学的構造のみならず、その複素構造までが定式化できる可能性が極めて高いという確証を得た。そこで藤川英華氏にも本研究への参加を求め、より高度の研究を進めることができた。その結果、画期的な成果が得られる目処は既に得られ、そのような成果の獲得のために必要な諸条件等の検証作業を続けていて、その成果を今後論文として取りまとめる予定である。 最後に、このような研究の急激な進展の結果、国際研究集会 Proceedings へ既に提出していた上記論文について大幅な改訂が不可欠となり、集会の組織委員や査読者との調整を行った。その結果、当該論文の大幅な書き直しが認められ、より改良された形で公刊される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の第一目標であったフラクタル構造のタイヒミュラー空間の定式化については、九州産業大学で行われた国際研究集会 Proceedings へ既に提出していた速報的研究論文において、既にそのような定式化をほぼ完成することができていたが、本年度の研究の進展により、そのような幾何学的構造のみならず、より上位の複素構造までを包括する成果を得られる極めて高い可能性が得られた。さらに第二目標であった標準的なフラクタル構造のタイヒミュラー空間についての幾何学的大域座標の決定に関しても、そのような成果に組み込まれる形で定式化することができることが分かった。また、上記の論文の改訂が許されたことで、特に古典的な自己相似集合などの場合に得られた精緻な結果をはじめ、多くの成果を当該論文に追加することができた。 次に、夏目阿佑子氏と共同で行った古典的無限次元表現空間に関する研究論文が本年度に公刊され、「タイヒミュラー空間」の項目を分担執筆した朝倉数学辞典が本年度に出版されたことも、この方面の研究の発展に大きく寄与すると考えられ、本研究にとって重要な成果であった。 最後に、本研究の最終目標である無限次元のフラクタル構造のタイヒミュラー空間の解明についても、一定の条件下で幾何学的構造だけでなく複素構造まで定式化できる可能性が得られた。無限次元のタイヒミュラー空間の複素幾何学的研究はいまだに黎明期にあり、このような成果は予想を超える重要な知見である。しかもその研究の成功に代表者らの先行研究が本質的であることが認識できたことは、以前の研究の正当性を示すと共に想定以上の研究成果の獲得について極めて高い可能性が得られたことになる。すなわち、本研究の最終目標は予想以上の形で達成することが確実になったと言ってよい。 以上から、本研究は「当初の計画以上に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
フラクタル構造のタイヒミュラー空間の基礎的理論構築は、以前から共同研究を行っている藤川英華氏の本研究への参加が得られたことにより、複素構造についての画期的な成果が得られる目処が既に得られている。そのために必要な諸条件をできるだけ精密な形で確定させ、さらに構築されるべき基礎理論の適用範囲を正確に決定することを今後の最終課題として研究を進める。具体的には、藤川英華氏や以前からの共同研究者の松崎克彦氏らと打ち合わせを重ねて研究を進め、フラクタル構造のタイヒミュラー空間に対する複素構造の存在定理を論文として取りまとめることが最大の目標である。そのためには研究打ち合わせを定期的に行う。科研費はそれらのための旅費とその際に必要な物品費として使用する。 本年度に定式化された幾何構造についても、具体的な幾何学的パラメータの決定は一般論としては定式化できない性質のものなので、できるだけ多様な複素力学系に対して統一的な幾何学的あるいは複素解析的パラメータを導入することが次の目標となる。上記研究者との定期的な研究打ち合わせは、そのような研究目標のためにも不可欠である。既に古典的な多くの代表例に対し詳細な解析を行い、主に有限次元の場合には満足すべき成果を得ているが、無限次元の場合にそれらの成果を敷衍できるかを検証し、幾何学的あるいは複素解析的パラメータの導入の可能性を決定することが今後の目標である。 なお無限次元の場合は、基礎理論たる擬等角タイヒミュラー理論自体が未だに黎明期にあるため、本研究により得られた成果を一般擬等角タイヒミュラー理論にフィードバックすることにより一般擬等角タイヒミュラー理論に対する新しい知見や重要な成果が得られると思われる。次年度の研究はこのような応用をも見据えながら研究を進める。
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