研究課題/領域番号 |
15K04927
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
中西 敏浩 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (00172354)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タイヒミュラー空間 / 写像類群 / 離散群論 / 双曲幾何学 / リーマン面 |
研究実績の概要 |
コンパクト双曲曲面のタイヒミュラー空間の大域座標系についての研究を行った。タイヒミュラー空間は曲面上の有限個の閉測地線の長さの組による座標系を許容する,例えば,種数 g > 1の有向閉曲面のタイヒミュラー空間の各点は6g-5個の測地線の長さの組で決定される。しかし,この例のように座標付けに必要な測地線の個数はタイヒミュラー空間の次元よりも多いので,タイヒミュラー空間の存在域にある座標間にはなんらかの関係が存在すべきで,その関係式を見つけるという問題が生じる。またタイヒミュラー空間に作用する写像類群を座標を用いて表現したとき,それがどのような変換になるかという問題がある。座標付けの研究はP. Schmutz, 奥村善英,Feng Luo らによってなされたが,写像類群への応用については,自然に思いつく問題でありながら,ほとんど先行研究がなかった。平成27年度に実施した本研究の成果は,これまであまり触れられなかった写像類群のタイヒミュラー空間への作用の表現に取り組み,それが適切な座標系の下に有理変換群になることを示したことである。この研究の意義は写像類群の力学系の研究の道を拓いたことである。さらに本研究は双曲3次元多様体やクライン群の理論,さらには数論など様々な分野に応用をもつので,今後の進展が大いに期待される。また連立代数方程式の解法と組み合わせることによって理論が深化されることが予想される。グレブナ―基底などの新しい研究手法を導入することで,今まで関連が薄かった分野にも研究範囲が広がっていくことも期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
任意のコンパクト曲面のタイヒミュラー空間に写像群の作用を有理変換群として表現する座標系を導入することができた。従来の研究では,5つ以下の穴をもつ球面,2つ以下の穴をもつ種数1の曲面及び種数2の閉曲面の場合にしかこのような座標系を導入することができなかったが,平成27年度において,任意のコンパクト双曲曲面のタイヒミュラー空間に所望の座標を導入することができた。さらに種数2の閉曲面の写像類群についてのいくつかの新しい知見を得ることができた。研究成果を発表した雑誌論文(電子版)は今年3月に出版された。予想していた所要時間よりも早く研究を完遂することができたので,写像類群の応用に根ざした研究に当初の計画より早く移行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度はリーマン面の正則自己同型群の研究に重点を置く。写像類群の有限部分群は,S. KerchkoffによるNielsenの実現問題の解決によって,あるリーマン面上に正則自己同型群として作用する。そのリーマン面はタイヒミュラー空間への群の作用の固定点集合に含まれる。この事実を基に,リーマン面の正則自己同型群をトポロジーの見地から研究する。目標はDehn捻りによる写像類群の生成系をもちいて有限群を表示することである。これに関しては廣瀬進氏らの研究があるが,私たちは本研究で得られた写像類群の有理変換群への表現を用いて研究を行う。
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