昨年度までの位相的有限型双曲曲面のタイヒミュラー空間に実解析的座標を導入し,それらによって写像類群の作用が有理変換のつくる群として表現できることを示した。従来の研究では種数2の閉曲面などの特別な場合にしかこの結果を証明することができなかったが,今回の科研費の申請期間で一般の曲面について証明することができた。この当初の目的を達することができたので,今年度は写像類群の有理変換表現のいろいろな応用を考えた。その一つとして有理変換で表された写像類のタイヒミュラー空間上の作用の不動点を見つけることによって,7つの閉曲線のまわりのデーン・ツイストからなるハンフリー生成系を用いた種数2の写像類群のすべての有限部分群の群表示を具体的に与えることができた。また有限部分群のホモロジー表現も計算した。この結果により種数2の閉リーマン面の等角自己同型群の分類に新たな知見を加えることができた。引き続いて種数3の閉曲面の写像類群の有限部分群のハンフリー生成系を用いた群表示を研究した。巡回群や一部の二面体群については具体的な表現を得ることができた。この結果はすでに廣瀬進氏によって位相-代数幾何的な手法で得られているが,写像類群の力学系を用いる我々とは手法が異なる。それら以外の有限群については,種数2の場合には存在しないランタン関係式が加わるなど写像類群の表示が複雑になりまだ成功していない。今後の研究課題である。他に種数2のタイヒミュラー空間を表す7次元空間内の超曲面に写像類群の作用について座標が正整数ばかりからなる軌道が少なくとも2つ存在することがわかったが,他に同様な軌道が存在するかどうかは未解決のままである。
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