研究課題/領域番号 |
15K04933
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
三澤 哲也 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (10190620)
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研究分担者 |
宮原 孝夫 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 名誉教授 (20106256)
宮内 肇 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (20181977)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リスク価値尺度 / 効用無差別価格理論 / 確率系 / プロジェクト事業 / 規模リスク / 内部リスク回避度 / 電力自由化 / 発電設備投資 |
研究実績の概要 |
代表者・三澤哲也らは不確実性リスクを考慮した事業価値評価法として、投資に対する将来キャッシュ・フローを確率系に見立てたうえで、その一種の不変量にあたる期待効用無差別価格を用いることを提案し、特に事業者の効用関数が指数型に対する当該手法を「リスク鋭感的価値尺度(Risk Sensitive Value Measure;以下RSVM)」と名付け、その数理的基礎の解明、ファイナンスや電力設備投資などの実務への応用に関する研究を行ってきた。本研究課題はそれらの深化を図ることである。今年度得られた関連成果は以下の通りである。 1)三澤哲也と分担者・宮原孝夫、宮内肇は損失リスクや規模のリスクに対する鋭敏性を有するRSVMが、太陽光発電を始めとする電力施設への設備投資や香港リート市場に代表される未成熟市場における資産評価に有効であることを示した。同時にRSVMから計算される「内部リスク指標」や最適投資規模指標/最大投資規模指標」など、上記性質を反映した指標についての活用法を検討・例示した。 2)三澤哲也はRSVMを応用する準備として、企業年金運用にかかわるインデックスポートフォリオの時系列データの構造型VARモデルによるモデル化と分析を行い、賃金上昇率に見合うインデックスの組み合わせを検出した。 3)三澤哲也と宮内肇は、これまでRSVMの弱点であった、効用関数に現れるリスク回避度のパラメータの推定問題について、RSVMを利用する中で投資家にとっての最適投資規模と最大許容規模が求められる場合があることに着目し、現実の太陽光発電事業の規模との比較によりパラメータ推定が可能であることを示した。 4)宮内肇は電力システムへのRSVM応用に関するより進んだ研究の準備として、自由化に伴う太陽光・風力発電を含む電力システムの最適制御や効率的運用問題に関する考察も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要でも述べたように、本研究課題の目的は、不確実性リスクを考慮した事業価値評価法に対する確率系理論からのアプローチならびにその応用に関する研究を深めることであり、27年度についてはそのフレームワークの中で定式化された「リスク鋭感的価値尺度(Risk Sensitive Value Measure; 以下RSVM)」の数理的特徴やファイナンス実務、設備投資を題材とした実務への応用可能性について深く検証することにあった。 その中で、三澤哲也と宮内肇はRSVMが持つ特性である「損失リスクや規模のリスクに対する鋭敏性」が、太陽光発電への設備投資における最適投資規模/最大投資規模を考えるのに有用であることを示し、そのことが、これまでRSVMの欠点であった「リスク回避度の推定」に役立つことを見出した。これは実務上、非常に大きい結果と考え、28年3月に電気学会・全国大会にて共同発表を行った。 また、三澤哲也と宮原孝夫は、香港リート市場のような未成熟な市場において、上記の「規模のリスク」とともにRSVMから計算される「内部リスク指標」が「投資銘柄の選択」において有用であることを示すことができた。それについては欧文査読雑誌に2016年に掲載予定である。 今後RSVMの適用対象になる可能性がある関連分野研究として、三澤哲也は企業年金運用にかかわるファイナンスデータの計量的分析を、宮内肇は電力自由化に伴う電力システムの効率的運用や風力や太陽光発電の最適制御問題に関する諸考察を行い、それぞれ結果を学会報告や論文誌に発表している。また宮原孝夫は、RSVMを含む不確実性リスクを考慮した事業価値評価法全般について、理論面での整理を行い、一連の総説論文を執筆・発表している。 以上の研究成果とその公表状況を研究目的と照らし合わせ考え、本研究課題は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の諸成果及び研究途上にある成果を併せ考え、平成28年度以降の推進方策として以下のことを構想している。 1)「リスク鋭感的価値尺度(以下、RSVM)」は「期待効用無差別価格」の概念にもとづいて導かれたものであるが、現在のところ陽な形で計算できるのは投資家の効用関数が指数型に限定されという欠点もある。そこで、別の代表的な効用関数に対するRSVMの一般化や近似的な形での当該尺度を構成する方法を提案する。 2)RSVMから計算される「内部リスク指標」は、下方リスク指標であるVaRを精密化した指標と考えることもできる。そこで、VaRはもとより、同じく下方リスク指標の代表的なものである、期待ショートフォールやコンディショナルVaRなどとの比較により、リスク評価指標としての内部リスク指標の位置づけを明確にし、それを通じて実務への有効活用をさらに模索する。 3)今までRSVMの静学的な活用法を中心に研究を進めてきたが、今年度はこの価値尺度を動学化した「動学的リスク鋭感的価値尺度」とその有効性を研究する。特に、「動学的リスク鋭感的価値尺度」と「リアルオプション・アプローチ」とを融合した評価法がプロジェクトの価値評価に有効であるか、検証する。 4)電力自由化に伴う電力システムの経済的観点からの様々な投資戦略について、発電設備投資以外の問題、たとえば再生可能エネルギー電源が多数導入された場合における電力システムの最適制御問題などを取り上げ、RSVMやその一般化した尺度の有用性を検証する。 以上の研究のために、関連する研究者とのセミナー開催、関連学会への出席・成果の発表、論文の投稿、図書やジャーナル等による研究情報の入手を行う。また代表者や分担者間での研究連絡として相互ないしは共同の研究会を実施し、研究成果情報の共有を図る。
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