研究実績の概要 |
今年度当研究課題では, 非線形分散型方程式に確率効果を伴うモデルとして, 特に光ファイバー中の光パルスの長距離伝送のモデル方程式である非線形シュレディンガー方程式を扱った. ランダム分散マネージメントの効果により分散によるパルスの崩れを抑制し, 光パルスの長距離伝送を可能にするという事実は, 一次元5乗の非線形べきを持つ非線形シュレディンガー方程式に対してのみ理論的に証明されている. そこで, 未だ証明されていない2次元での解の挙動について数値計算を行い, ランダムな分散効果により解が大域存在する傾向であることを確かめた. また光ファイバー中, ランダムな欠陥が存在する媒質を考える第一歩として媒質に一つだけ非常に強い(非線形な)特異性をもつ非線形シュレディンガー方程式を考えた. Soliton scattering に関連する散乱行列表示の調査や, エネルギー有限なクラスに属する初期値に対する解の散乱証明を行った. このモデルに対しては, モデルの持つ強い特異性の影響で, 近年の常套手段であるストリッカーツノルムを基本にしたプロファイル分解による minimal blow-up solution の存在証明法をそのまま応用するのは適当ではない. そのため, Riemann-Liouville 分数冪積分作用素の平滑化効果と線形シュレディンガー方程式の基本解のtime homogeneous norm に関する平滑化を組み合わせることにより証明に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
確率効果を取り入れた非線形シュレディンガー方程式の解の大域存在を数値計算によって確認したが, その数値スキームについて収束や安定性を論じる予定である. 国内の数値計算スキーム開発者とコンタクトを取り, 確率偏微分方程式に対して彼らの手法も試し, どのくらい有効か調査する. 媒質がランダムに変化する非線形シュレディンガー方程式において, 非線形項の冪が非常に大きいとき, またはランダムな媒質効果が非常に小さいときに爆発解はあるのか, もしあるのなら, どの様な形状を示すのか予想される爆発のプロファイルを数値実験し, そのプロファイルの周りで線形化を行う方法で爆発解の構成を試みる. 2017年6月にドイツで研究集会「Nonlinear PDEs on graph」を研究代表者が世話人として開催することが決定している. そこで様々なファイバー形状によって光伝搬がどのように異なっていくか専門家たちと話し合う. そこで確率効果を入れて議論することを視野に入れている.
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