研究実績の概要 |
本研究で扱うモデル方程式は,非線形方程式かつ量子効果を持つ波動型方程式に確率項が付加されたものである. 第一に, 有限温度ボース・アインシュタイン凝縮のモデルである加法的ノイズと散逸項を伴うグロス・ピタエフスキー方程式に関して成果を得た. 昨年度は,当モデルにおいて空間1次元の場合に, Gibbs測度で表される熱平衡状態を構成, 解分布が時間無限大で指数的にGibbs分布に従うことを示したが, 今年度はさらに渦生成を考慮したときに必要となる化学ポテンシャル項をモデルに加えた上で, Gibbs分布に指数的に収束することも示すことができ,それらすべての結果をまとめた論文が出版された.その結果の拡張として空間2次元モデルについても研究を進め, 現在論文としてまとめている.第二に,論文 Henning et al. (Phys. Lett. A 1994) に現れ, ナノデバイスにおける波の伝わり方(たとえば量子力学的な粒子の動き方)を解析するために使われるシュレディンガー方程式の解析を行った. デバイス構造が周期的あるいは準周期的なストリップ(さらにはランダム配置)を持つ場合を考慮したものが現実的なモデルであるが, まずはストリップが一つだけの場合に着目した.ここ10年の間に非線形シュレディンガー方程式の解の漸近挙動を調べる手法が飛躍的に発展した一方で, 当モデルである非線形項効果がとても強い特異性を持つ場合に(数学的には、特異性はデイラックのデルタ測度を用いて表される), どんな条件下で散乱解が存在するのかわかっていなかった.この研究では, 非線形項が十分大きければエネルギー有限なクラスで,基底状態よりエネルギーの低い初期データに関して解が散乱するという事実を厳密に証明することに成功した.また, 関連する量子ウオークの漸近挙動についても調べた.
|